Barrelの収録文献が平成21年11月16日に3100件を超えました!
3100件目の文献は,商学科の加賀田和弘先生による,
加賀田, 和弘 (2008) CSRと経営戦略 : CSRと企業業績に関する実証分析から. 総合政策研究, 30: 37-58でした。
加賀田先生にお話を伺いました。
Q:登録3100件目の論文「CSRと経営戦略 : CSRと企業業績に関する実証分析から」は、どのような内容ですか?
大まかに二つのパートに分かれています。前半では、近年、実際のビジネスの現場・学術研究分野を問わず大いに注目されているものの、曖昧でよくわからないCSRの概念を自分なりに整理した上で、CSRを経営戦略の観点から捉えるためのフレームワークの一つを提示しています。経営戦略とは、極簡単に言えば「企業が経営を行う上での目的の決定とそれを実現するためのシナリオ・方針・設計図」のことなんですが、戦略が成功するためには、大きく分けて企業の外部環境に向けての条件と内部環境に向けての条件の二つが必要になります。一般に、前者を市場における企業の位置づけという意味で「ポジショニング」、後者を企業内の資源や能力を活用するという意味で「リソース」と呼びます。論文では、この「リソース」概念に注目して、経営戦略論の観点から、CSRへの取り組みを「コーポレート・レピュテーション」(評判・信頼・名声)という無形の経営資源を顧客の心の中に、あるいは企業内の組織資源として獲得・蓄積する活動と捉えることで競争優位を実現していくという考え方の提示を行いました。
また、論文の後半では、CSRの取り組み状況と企業業績との関係について、東洋経済新報社CSR企業総覧のデータを用いて、企業の売上高経常利益率に関する実証研究を行っています。
Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?
もともと、山や自然が大好きで、環境問題に興味を持ちました。環境経営について色々と研究してきましたが、企業の環境対策は企業の社会的責任(CSR)論とも関連が深く、CSRこちらについても自然と研究するようになりました。その際、環境経営と比べてCSRは多様な概念が含まれていて、論者によってその主張は様々でした。これは自分なりに定義をする必要があるなと思い、研究を始めました。後半の実証研究は、日本でCSRが言われ始めたのが2003年ごろからで、当時は企業の取り組み状況を開示したデータがなかったのでそもそも分析が難しいという状況でした。その後CSRのブームが来て、東洋経済新報社が2005年に主要750社の企業ごとのCSRデータをまとめた「CSR企業総覧2006」を出版して、各社のCSRへの取り組みについてデータを入手することができましたので、直近の2006年3月期末時点の財務データと関係を見てみようということで分析を行いました。
Q:現在の研究について教えてください。
基本的には、環境経営やこの論文で取り上げたようなテーマの理論研究を継続しています。実証分析では、最後に分析を行ってから少し時間が経ってしまいましたから、同じような実証分析の再検討や2007年12月までの好況期とそれ以降の不況期に分けた分析などをおこなっていきたいと思います。また、学内の地域研究会のメンバーとして、環境経営の面から見た、北海道の企業の活性化に取り組んでいます。経済学科の江頭先生と一緒に、道内の企業に、環境についての取り組みやCSRについてのインタビューを行ったりしているんですよ。
Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。
CSRに興味を持つ多くの人に読んでもらいたいと思います。まだまだ理論的な詰めが甘いところがありますので、批評いただければ幸いです。
Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。
インターネットで誰でも手軽に論文が読めるのは筆者・読者双方にとってありがたいことだと思います。来年から私を指導教員として、中国の留学生の方から研究生の申し込みがありましたが、Barrelで私の論文を読んで申し込みをしてきたとのことです。Barrelがなければこういうことも起こらなかったかもしれません。人と人をつなげるという意味でもよいシステムだと思います。
ただ、古い文献については、インターネットで手に入らないものも多いと思いますし、ご自分の興味のある本から、発見する喜びを得ることもあるのではないでしょうか。図書館に行く楽しみも、なくなってほしくないと思います。
興味を持った方へ!...加賀田先生からのオススメ入門書
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加賀田先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。
先生方のご協力のおかげで正式公開から約1年8ヶ月あまりで登録論文数も3100編を越えました。ありがとうございました。3100編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。