3200件目記念インタビュー

Barrelの収録文献が平成21年12月11日に3200件を超えました!

3200件目の文献は,商学科の 田中幹大先生 による,
田中, 幹大(2009) 「戦後復興期大阪における自転車産業と中小機械金属工業」 経営研究, 59(4): p.43-78でした。

田中先生にお話を伺いました。

MrTanakaQ:登録3200件目の論文「戦後復興期大阪における自転車産業と中小機械金属工業」は、どのような内容ですか?

1945年の敗戦から50年代中頃までの大阪の機械・金属業種の中小企業(中小機械金属工業)を、特に自転車産業の分析を通じて検討したものです。敗戦後の中小機械金属工業は、大企業の生産復興が遅れるなかで早期に生産を再開し、生産量を増加させていきましたが、その中心の1つは自転車、ミシン、カメラ、時計といった軽機械・消費財でした。今では自転車などは国内でほとんど生産されていませんが、当時は中小機械金属工業が戦後復興を支えており、アッセンブル方式と呼ばれる極度に分業関係が広がった形態でこれらの品目を生産していたのです。この時期のアッセンブル方式がどのようなものであったのか、分業関係の中で個別の中小企業がどのように生産に関わっていたのかを明らかにすることが論文の目的の1つとしてありました。
分業生産は凄いもので、自転車のペダルのゴムやシャフト、虫ゴム、各部品のネジの1つ1つに至るまで別々の中小企業が担当していました。分業関係が広がっていたことで、中小企業は何か1つの部品を作ることで参入でき、こうした生産形態の産業が展開したことが、後の高度成長期における産業集積発展の起点となっていきます。論文のもう1つの目的は、問屋と中小企業の関係についてです。この時代の問屋が、どのような人たちに担われ、どのように活動していたのかが不明のままでしたので、これらを調べて中小企業との関係における問屋の役割を検討しました。問屋の活動も、後の産業集積の発展を導く大きな要因となったと考えています。
 (論文中には多くの関係者のインタビュー内容がありますね。)
中小企業の歴史研究で難しいのは残された資料が少ないことです。大企業だと社史とか様々な資料が残されている場合があるものの、中小企業の場合、特に個別企業に関する資料が残されていることは稀です。今回、研究対象としている時代が戦後直後ということもあって、当時の関係者でご存命の方もいるので、インタビューという方法を用いました。勿論、インタビューだけでは実証性に乏しいので、可能な限り資料を収集し、インタビュー内容と資料を付き合わせて検討していく作業を行っていきました。
当時、大阪で自転車生産にかかわっていた方々―ほとんどが現在80代の方々ですが―に話を伺い、また、色々な機関で資料収集しました。小樽商科大学図書館のレファレンスにも資料収集では大変お世話になりました。


Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?

 もともと大学院生のときから「機械工業の下請制」を研究しており、大企業の下請制のもとでの中小企業の展開を検討していたのですが、そうした視角からだけでは戦後の中小企業の展開を説明できないと考えるようになりました。中小企業が自らどのように発展してきたのか、社会の中でどういう役割を果たしてきたか、中小企業自身が社会の変化にどう対応してきたのか、ということを研究していかないと、大企業との関係からだけでは中小企業の展開を説明できないと感じました。
戦後の中小企業史、産業集積の過程や内容を明らかにして、中小企業が日本の産業発展、高度成長をどのように支えてきたのかを理解したいと思い、多くの中小企業が生産にかかわっていた戦後復興期の自転車産業の検討を目的に、インタビューのための人脈づくり、資料収集を大学院時代からはじめました。


Q:現在の研究について教えてください。

 大きくは2つのテーマがあり、1つは、北海道も含め全国の中小企業、産業集積の発展展望に関する現状分析で、もう1つが中小企業の歴史的(戦後史)研究です。中小企業の現状分析では、たとえば、北海道・東北地域の自動車産業や旭川の家具産地、自治体の地域産業政策などについて調べています。
歴史的な研究としては、現在、戦後直後の日本のミシン産業について調べています。インタビューや資料調査に苦戦していますが、中小企業論の分野で歴史的な研究を行っている人はあまりいませんので―経済史・経営史分野では近年研究が多くなっていますが―中小企業関係者の証言を、関係者が生きているうちに記録することだけでも大事であると思っています。


Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。

内容は研究者向けですので幅広く読んで欲しいとは申しませんが、日本の産業、中小企業の発展はどのようなものだったのか、歴史的な過程に関心のある方には参考になると思います。
産業構造が変化し、生産の海外移転も進んでおり、自転車もミシンも国内で生産されない時代になりましたが、日本の産業発展の史実を踏まえ、長期的な視点で眺めて今後どうするのかといった展望を考える必要性もあると思います。そうした面で興味のある方に読んでもらえたら嬉しいですね。


Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。

このような電子媒体に論文が掲載されると、特定の関心を持って調べている方以外の目に留まる機会もでてきます。Barrelでは、専門分野のデータベースと違って、検索語の対象も広く、様々な方面からのアクセスが期待でき、幅広く読んでもらえる可能性が広がるのがありがたいと思います。
公表する以上、どなたに読んでいただいてもわかりやすいように、しっかりと書かなくてはいけないと身が引き締まる思いもありますね(笑)。


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田中先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。


先生方のご協力のおかげで正式公開から約1年9ヶ月余りで登録論文数も3200編を越えました。ありがとうございました。3200編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。