Barrel登録を記念して、2010年4月に小樽商科大学に赴任されたアントレプレナーシップ専攻の保田隆明先生にお話を伺いました。
赴任されて2ヶ月ほど経ちましたが、小樽商大の印象はいかがでしょうか。
簡潔に言いますと、全てがコンパクトに纏まっている、顔が見える距離で良いなと思います。
私は、アントレの他、学部の方でも3,4年生の科目「財務管理論」を受け持ち、前期4単位で週2回、約百名の学生が受講しているのですが、キャンパス内でよく顔を会わせます。私の母校の早稲田大学では1万人規模の学生がいましたから知り合いとすれ違う機会は殆どありませんでした。ここでは歩いていると必ず誰かと会うという感じで、初めて赴任した者としては非常に溶け込みやすい、馴れ易いと感じます。
逆に狭くて何処で誰に会うか分からずプライベートが隠せないとも言われますが、新参者に対する違和感・過干渉等、負な面はあまり感じないのでは?
そうした部分も確かにありますが、人生の半分を関西、もう半分は東京に居た私が、こちらに来て感じましたのは、コンビニ一つ、スーパー一つとっても店員さんの接し方が違いますよね。東京でも客に「いらっしゃいませ。」とかの挨拶はしますが杓子定規というか定型文を読んでいるだけという感じなのに対して、こちらの方々は何処のお店でも店員さんがきちんと挨拶してくれる。そういう意味では、比較的に地域ならではの人間味が感じられますので、大学としてもそうかなと思います。
北海道には何らかのご縁があったのでしょうか。
いえ、全くありませんでした。昨年、本学の採用面接に来たのが人生2度目の来道です。十年ほど前に一人旅で稚内に入り、そこから列車で何故か偶然小樽に立ち寄り、函館経由で東京に戻ったことがありました。だから一度だけ小樽に来たことがあるのです。でも冬の北海道は経験がありません。
先生は、外資系証券会社勤務やベンチャー企業の立ち上げのご経験、各社の財務戦略アドバイザー、金融庁の専門研究員等で活躍される傍ら、マスコミ出演や著書の出版も多く、自身のブログもお持ちで、この分野では相当名前が浸透されていると思いますが、学生さん方からの反応はいかがですか。
やはり実務の話をすると反応がいいようです。証券会社や金融機関、あるいは企業の財務部門がどのようなビジネスをしているか等は、学生からみると取り付きにくく分かり難いです。アントレプレナーシップの社会人学生であれば、まだ比較的理解が有るようですが、学部生の方は未だ金融業そのものの理解・イメージがし難い部分があり、証券会社一つとっても最初はよく分かってはいないようですが、たまに授業で説明するうちに「なるほど、こういうことか。」と反応・理解が進み、2ヶ月ほど経ってきて「証券業も面白そうだな。」と興味を示す学生もチラホラ出てきている状況です。
出来れば、私の場合は元々が実務出身ですから、そういう意味では実務の状況はどういうものか、それをお伝えするのも一つの使命かなと感じていますので、なるべくその点を心掛けているところですが、そうは言っても大学教育という場に於いては理論もきちんと学ばなければなりませんので、そのバランスが重要かなと思っています。
先生の研究内容について、ご紹介ください。
基本的なフレームワークとしては企業の財務戦略ですが、それは何かと言いますと、基本的にはどうやってお金を調達するべきなのかという資金調達の戦略、もう一つは、その調達したお金をどう使うかです。使うと言うのは運用ではなく投資の事で、とういう事業分野に投資するかという話ですが、その中の一つとしてM&A(Mergers and Acquisitions)というのが有ります。
M&Aとは、企業の合併・買収活動の総称なのですが、要するに資金を調達して会社を買収するという一連の流れに関する事を研究テーマとしています。もう一つの軸としては、一度自分がベンチャー企業を興した事もあり、ベンチャー投資をする会社に属していたこともありまして、ベンチャー或いはIPO(Initial Public Offering = 株式上場)というところも研究テーマに載せています。
また、折角北海道におりますので、この間に札幌証券取引所の活性化等にも出来れば取り組んでみたいと思っています。
先生はインターネットビジネスにも取り組んだことがあるようですが?
そうですね、6年前になりますけど、もともと自分が2004年に起業した時というのが、ソーシャルネットワーキングサイトの立ち上げでしたから、その後についてはネットビジネスに対して比較的近いものと言えましょうか、知り合いも多くなりましたし、いろいろな情報も入ってきますので、その辺は随時継続的に取り組んでいるところです。
ただ、それについて、ではインターネットビジネスが今後どうなっていくと思いますか?という研究というのは実はできてはいません。基本的に専門は金融中心ですので、どうしても財務戦略の方になってしまうのですが、自身半分、パーソナルインタレストとしては、インターネットビジネスの方もウォッチしていきたいと思っています。
先生の担当講義について、ご紹介ください。
まず、アントレプレマーシップ専攻の方は、コーポレート・ファイナンス、ビジネスプランニングの授業を担当させていただいております。
ただ、両方とも一人で担当しているわけではなく、そもそもビジネスプランニングは複数の教員が担当して行うものですが、コーポレート・ファイナンスの方も、籏本先生が昨年まで受け持っていたところに加えていただいています。
ビジネスプランニングの方は、正にその名の通り新規事業をどうやって創りましょうか、どう新規事業を興しましょうかといった、事業をプランするためのスキルやノウハウ・考え方というものを学ぶためのものです。
授業では学生に、こういう新規事業を起ち上げますといった事業計画を立ててプレゼンテーションをしてもらい、実際に会社を興そうとした時に必要な知識とノウハウを会得してもらいます。
コーポレート・ファイナンスの方は、正に企業の財務戦略のところであり、どうやってお金を調達しますか?という部分と、今の自分の会社には一体いくらの価値(企業価値)があるのか?という部分があり、その延長線上にM&Aが入ってくるというところです
学部の授業の方は、財務管理論とういうことで、これも平たく言えば、コーポレート・ファイナンスの範疇になりますので、企業がどのように資金調達をするのか、それをどのように事業投資するかを、M&Aも含めて学んでいただきたいと思っています。
図書館についてご感想をお伺いしたいのですが、本学は財政基盤が弱く、早稲田大学のような大規模大学図書館とは違い、授業関連図書以外の書籍、話題の新刊等を買う余裕がありません。
アカデミックの図書と書店にある新刊とは、少し毛色が違いますけれども、両方あったほうがバランスは良いと思います。特に学部生に伺うとやはり今書店にあるものを読みたいという声が多いですね。ただ、彼らには本を買い足すお金がないようです。例えば、よく授業でお勧め本を紹介するのですが、その時に学生からは「図書館に有りますか?」と聞かれますが、検索して「置いて無いなあ。」と答えるとショボーンとして帰ります。
図書館という意味においては、私自身が未だあまり図書館を使えていないのでよく分かりませんが、蔵書の増備が芳しくない状況は残念な点ではありますが、新入生にライブラリーツアーを実践しているところなど、比較的開かれた図書館になろうと努力しているという印象はあります。レイアウトにしても、入館してすぐ新聞コーナーや自習室・休憩室があるのは、いきなり資料が並んでいる図書館よりリラックスできるムードがあるので良いと思います。
学生を呼び込むために特に人気のあるのは文芸・小説等ですが、評価の定まった作家以外の作品の選定は難しいところで、当館で所蔵していない図書については、市立図書館等との連携で対応しています。本学の場合、先生の個人研究費による購入図書についても、学内共有財産として皆さんが利用できるよう協力をお願いしているところです。
私の持っている本であれば、研究室にある本は学生に貸し出して読んでもらっていますが、顧客を何処におくのか、教員がメインか、学生がメインか、バランスを取るのが難しいかもしれないですね。
一つ気になるところは、「日経テレコン」が自由に使えないことですね。アントレでは勿論必携ですが、商科系大学には必須だと思います。早稲田大学ではオープン利用で、学生が就職活動前に企業の情報を得るのに好都合でした。本学の学生がこれを使えずに企業訪問しなければならないのは不憫であると思います。
一橋大図書館等でもオープンになっており、必要性は認識しているのですが、誠に遺憾ながら、日経テレコンのオープン使用料年額(1口)が、本学の年間学生用図書購入費に近い状況では図書館として対応できず、先生方の後押しをお願いしたいところです。
さて、先生は各種論文や投稿の他、単行本も多数執筆されています。 Barrelの研究者(紹介)ページの方でも、公開論文の他に、各先生の単著のご紹介も行っておりますので掲載したいのですが、残念なことに当館では所蔵がありません。
私の本でよろしければ今度いくつか寄贈いたします。
ありがとうございます。最後にBarrelについて、ご感想をお願いいたします。
Barrelの試みについては非常に良いと感じます。研究成果物を広く一般の人達に読んでもらうことによって、初めて研究した意義があるのですが、そうした意味においても成果を告知するメディアはいくつあっても十分ということはなく、特にこれらを集約しているBarrelのような研究論文サイトは非常に価値が高いと言えます。
どうしても、一人で自らメディアを使って告知していくのは、なかなか厳しいものがありますが、Barrelのようなものがあると、他の先生が凄く優れた研究成果を出してBarrelに掲載することで、他の先生も只乗りすることが出来きます。Barrelに行けば良い論文が見られるという形になると、皆がそれを利用し、お互いに良いものを出し合い、お互い只乗りすることが出来て発展性が期待できます。「只乗り」というと言葉は良くないですが、相乗効果というものは必ずあると信じますので非常に良いシステムだと思います。
保田先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。
これからも附属図書館では、先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも、ご著作をより多くの人々へ届けるため、論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。