Barrelの収録文献が平成24年6月26日に4300件を超えました!
4300件目の文献は,田林洋一先生による,
田林, 洋一 (2012) スペイン語の動詞と構文が持つ他動性に関する認知言語学的考察 : 文法形式と意味との乖離を巡って. 慶應義塾大学日吉紀要. H, 人文科学, 27: 151-174でした。
田林先生にお話を伺いました。

Q:登録4300件目の論文「スペイン語の動詞と構文が持つ他動性に関する認知言語学的考察 : 文法形式と意味との乖離を巡って」は、どのような内容ですか?
この論文では、スペイン語の他動性(動詞が相手にどれくらい影響を与えるか)について考察しました。例えば、スペイン語には「溺れる」という単語はなくて「溺死する」という単語しかないんです。研究によって、スペイン語の動詞は結果を表す要素というのが日本語よりも多いこと分かりました。例えば、日本語では「溺れたけど死ななかった」とは言えますが、スペイン語では「溺死したけど死ななかった」とは言えません。このように、日本語は過程を重視する言語ですが、スペイン語は結果を重視する言語であるということを論考しました。「招待する」などスペイン語と日本語の両方とも結果を含意しない動詞はありますが、スペイン語では結果を含意せず、日本語では結果を含意するという動詞は、研究の結果存在しないということが分かりました。そういった現象をまとめたのがこの論文です。つまり、日本語に比べてスペイン語は他動性が強いということがいえます。翻訳などの際には、この点を注意しなくてはならないと思います。
Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?
すごく簡単なのですが、翻訳の小説等を読んでいるときに「溺れたけど死ななかった」という言い回しがなかなか出てこないので、どうしてだろうと考えはじめました。辞書を引くと「溺れた」という単語は出てきますが、括弧書きで「溺死した」と書いてあります。西西辞書で「溺れる」と引くと「死ぬこと」と書いてあります。それで、「溺れる」という動詞はないのか、ということを調べるようになって、スペイン語では結果を含むけど、日本語では結果を含まないという動詞が、けっこう多いということに関心を持ち、研究対象とするようになりました。
Q:現在の研究について教えてください。
今はスペイン語の歴史について主に調べています。今まで研究してきたのは現在のスペイン語についてばかりで、スペイン語の歴史についての業績は翻訳したものが1本あるだけで、翻訳しただけで自分で研究した訳ではないので、自分の中であまり頭に残っていない気がしていました。
現在は、もともとラテン語だったのが中世スペイン語になり現在のスペイン語になったということを中心に調べているところです。
Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。
私の論文は、言い回しは難しいかもしれませんが、中身はそれほど難しいことは書いてないと思うので、スペイン語を専攻している大学1年生、2年生でも辞書を引きながらであれば、読むことができると思います。論文は難しいという固定観念を持たず、是非学生にも読んでいただきたいと思います。
Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。
毎月、自分の論文がどれだけ読まれているかのメールが送られてきますが、大変励みになっています。
また、Barrelは学内だけではなく、インターネットで公開しているので、他の大学などにBarrelの存在をもっとアピールしていったらよいと思います。
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田林先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。
先生方のご協力のおかげで登録論文数も4300編を越えました。ありがとうございました。4300編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。