お知らせ

5000件突破!!記念インタビュー
 
平成29年9月に登録件数が5000件を突破しました!
突破記念として、アントレプレナーシップ専攻の西村 友幸先生にインタビューをしました。



Q:先生の研究分野について教えてください

A: ざっくり言うと経営学なのですが、いくつかテーマとしているものがあります。そのうちの4つほどあげてみましょう。まず1つ目のテーマについてお話ししますね。最近「日本経営学会第91回大会」のワークショップで「北方バーナーディアンの挑戦―組織の境界に再度注目しようー」というテーマで発表をしました。このワークショップでは組織の境界について報告しました。組織とは、企業だけじゃなくて、病院とか、学校とか、色々なタイプの組織のことです。組織とはどこまでが組織で、どこから先が組織じゃなくなるのか、ということについて話しをしました。

Q: 先ほどのワークショップのテーマで“北方バーナーディアン”という言葉が出て来ましたが、それはどういうことですか?

A: 経済学の分野で、ケインズが1936年に『雇用, 利子および貨幣の一般理論』という本を出して、ケインズ革命を起こしたと言われていますよね。それとほぼ同時期の1938年に、チェスター・バーナードという人が『経営者の役割』という経営学の分野の本を出しました。ケインズと同様に、バーナードのこの本は、経営学の分野でバーナード革命を起こしたと言われています。

ケインズの理論を信奉する人たちをケインジアンといいますよね。同様にバーナードの理論を信奉する人たちをバーナーディアンといいます。今、私は北海道に住んでいますので、“北方バーナーディアン”と勝手に名乗っているわけです。そのバーナードの考えをもとに組織の境界を解明するというのが、私の研究テーマの一つなんです。

Q: 組織の境界を解明するのはとても難しいことのように思えます。組織と言っても様々な形があると思いますし、境界線をどこで引くのかとなると・・・

A: そうですね。人で見るのか、活動で見るのか、という考え方が一つあります。この人は組織のメンバーなのか、それともメンバーじゃないのかという視点で境界を考える見方もあるけれども、今こうしてお話ししているような活動とか行為が、組織に含まれるのかどうかという見方もありますよね。

バーナードは基本、活動で見るとしています。つまり、組織というのは人の集まりじゃなくて、活動のシステムであるという考え方ですね。バーナードは、この組織の境界について、とてもユニークな見方をしています。それは、顧客も組織の一部だとする見方です。通常は、顧客は組織の外部の人間というふうに考えますよね。

Q: 先生はそのバーナードの考え方をどう思っていらっしゃいますか?

A: 私の考えについては、日本経営学会の『経営学論集』「北方バーナーディアンから見た組織境界」で報告しています。今から40年くらい前に、北方バーナーディアンである眞野脩や小泉良夫等が、組織の境界は2重で、外側の境界には顧客は含まれているけれども、内側には含まれていないという第三の見解を発表しています。

それはあまり知られてないので、私は北方バーナーディアンの末裔として、この考え方、つまり、二つの境界の狭間に顧客、あるいは顧客の行為というのがあるんだよ、ということを伝えていきたいと思っています。
 
Q: 2つ目の研究テーマについて教えてください

A: 今年度から、経営学説史も担当しています。今は商学科の加藤敬太先生と共同研究をしています。テーマは「わが国現代経営学の回顧と展望」についてです。1970年代なかばくらいからの日本の経営学の発展について読み解こうという研究をしています。その当時、経営学に深く携わっていた方々に、その研究成果が生まれた背景などについて聞き取り調査をしています。まだ研究1年目ですから、これからその成果を出していきたいなと思っているんです。
 
Q: 3つ目の研究テーマとは?

A: 実は、先ほどお話しした共同研究に先駆けて、「ドメイン研究の源流―榊原清則先生に聞く―」をまとめました。私が釧路公立大学に在籍していた頃のことなんですが、榊原先生が商大に集中講義でいらしている最中に、加藤先生と私と院生の笹本さんと三人でインタビューをしました。このテーマに関係するものをこれから先、発表していく予定です。
 
Q: ドメインとは何ですか?

A: 組織の生存領域や存在意義と言ったらよいでしょうか。会社であれば、どういう会社なのか、どこを目指しているのか、といったことです。榊原先生が『企業ドメインの戦略論: 構想の大きな会社とは』で触れていることですが、人と同様、組織も自分たちの立ち位置、方向性、ビジョンというものをしっかり決めなければいけない、ということですね。人はそういうことを決めなくても生きていけるのかもしれませんが、こういうことは案外重要ですよね。組織にとっても同様だと思っています。

ドメインについては、いくつか書いています。その一つは『新経営戦略論(21世紀経営学シリーズ 3)』の第2章「経営戦略の共通基盤-ドメインの定義-」です。これらは、経営学の中でもどちらかというと組織論というより戦略論なんです。戦略論の中で私が唯一手がけているテーマが、このドメインの定義なんです。
 
Q: 4つ目のテーマは何ですか?

A: 自発的協働の話ですね。商学討究にこのテーマについての論文を発表しました。これは企業じゃなくて、ボランティア組織のような話になります。これもちょっとずつですが、十数年に渡ってやっているテーマです。どうしたら人間相互の自発的な協働を促すことができるのか、というお話しです。
 
Q: 商大の学生さんにオススメする本がありましたら教えてください

経営者の役割

これは、このインタビューの中にも出て来ましたが、大学生のころに買ってずっと使っているので、もうボロボロなんですよね。

・二重らせん

私は作品そのものだけじゃなくて、新しい理論とか、アイデアが生まれる過程も非常に好きなんです。そういう本を読むと、こちらの創作意欲が沸いてくるということがあるんですよね。私の研究分野とは全然違うけど、探求するという点では、とても興味深いものがあると思っています。

経済学の宇宙

これはベストセラーになりました。インタビューを書き起こしたものですが、理論が生まれるまでの過程がよくわかります。

・北の街にて


これは忘れてはならないですよね。著者の阿部謹也は商大の教授でしたが、商大に在籍していた頃の12年間について書かれています。

Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか?

今回、古いものだと2005年に刊行された論文2篇もBarrelに登録をお願いしました。2005年というと、研究者を志してから10年、ようやく一人前の論文が書けるようになってきた頃です。その翌年の冬の日だったと記憶しています。図書館に置いてある雑誌の記事の中に「他人を感動させる前に、まず自分を感動させよ」という言葉を見つけました。名言だと思いました。気持ちが吹っ切れましたね。それ以来、私の書いた論文のもっとも大切な読者は私です(笑)。

冗談はさておき、Barrelを通じて誰に自分の作品を読んでほしいかといえば、「知を愛する人」でしょうね。経営学は実学なので、現実の経営活動に携わっている実務家、という回答もあり得るかもしれませんが、どうもしっくりきません。知を愛する実務家というのであればもちろん十分に該当しますが。でも、これは考えてみれば当たり前のことなのかもしれません。知を愛する人のために知を生産し、貯蔵するというのは、ワインを愛する人のためにワインを生産し、貯蔵するのと何ら変わりありませんので。

Q:Barrelについてご意見、感想があればお願いいたします。

登録5,000件突破、おめでとうございます。Barrelという名前がいいですね。今しがた、論文をワインにたとえましたが、Barrelにはそれこそヴィンテージといえるような作品がたくさん保存されているのではないでしょうか。知を愛する人のために、コレクションの中から「これはおすすめ」という作品を紹介していってはいかがでしょうか。

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西村 友幸先生のBarrel公開論文はこちらです!(2017.10.17現在)

自発的協働の誘因は何か ― 集合行為論と持ち帰り理論の比較テスト ⑵ ―

珠算版ストラックアウト

自発的協働の誘因は何か ― 集合行為論と持ち帰り理論の比較テスト (1) ―

ドメイン研究の源流 ― 榊原清則先生に聞く ―

非営利組織はアドホクラシーか?

lnterorganizational Relationship among Government, Industry and Academia in the Japanese Public Water Services: Compatibility and Motivation in lnterorganizational Settings

The Relationship between Interorganizational Interdependence and Coordinating Agencies:An Empirical Investigation

垂直的組織間関係における調整の構造

集合レベルの基本戦略

自律協働システムの概念

アソシエーションの中の官僚制-厚生労働省所管の社団法人における職員数の規定因-


西村先生、お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
Barrelでお預かりしているすべてのアイテムが、私どもにとってはヴィンテージワインのような存在です。
樽の中でより味わい深く熟成するよう、これからも尽力して参ります。