Barrelの収録文献が平成20年4月4日に200件を超えました!
200件目の文献は,企業法学科の一原亜貴子先生による,
一原, 亜貴子 (2004) 違法性の錯誤と負担の分配(一)『関西大学法学論集』54(1) , pp82-117
でした。(違法性の錯誤と負担の分配(二)は201件目の文献でした。
一原先生にお話を伺いました。
Q:登録200件目, 201件目の論文「違法性の錯誤と負担の分配」は,どのような内容ですか?
刑法学が私の専門分野で、責任論が研究テーマの一つです。何をしたら犯罪になるのか、その犯罪にどういう刑罰を与えるかを定めるのが刑法です。犯罪の成立要件の一つに違法性の認識可能性があります。違法性の認識とは、自分の行為が違法であることを認識しているかどうかということで、「違法性の錯誤」は、犯罪行為を行った者に違法性の認識が無かった場合を指します。この論文では、このように国民が違法であることを知らずに犯罪を犯してしまうリスクを誰の負担によって解決すべきか?という視点から、違法性の錯誤について論じました。国には法律を国民に周知する義務があります。確かに、法を犯した人が法律を知らなかったからといって、ただちに責任がないとは言えません。けれども、国が法律を周知するのを怠っていたとしたらどうでしょう。このような国家と国民の間での責任の分配について、ドイツの議論を参考に考察しました。「負担の分配」という考え方は、刑法学では使われてこなかった視点ですが、本論文でこれを刑法学に取り入れました。
Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?
もともと、行為者の主観面・内心面に関心がありました。教科書的な話をすると、犯罪の成立要件には客観的なものと主観的なものとがあります。主観的要件には、違法性の認識のほかに、責任能力であるとか、故意、過失なども含まれます。この、犯罪の主観的な部分、その人がどういう内心、気持ちでその行為をしたか、といった内心面に興味があります。
Q:現在の研究について教えてください。
一つは「負担の分配」の視点から、違法性の認識だけではなく、責任論全体について研究をすすめています。たとえば、「故意」と「違法性の認識」をどう区別するのかなどです。
もう一つは「営業秘密の保護」についてです。企業秘密(trade secret)と言われるものですね。不正競争防止法が平成15年に改正されて、営業秘密を保護するため罰則が新設されました。このことについてはまだあまり取り扱われていないのですが、従来、「情報」の保護に消極的な態度を取っていた刑法が、情報を侵害する行為に対して刑罰を以て臨むことになったというのは非常に大きな転換ですので、ぜひ詳しく検討しておかなければ!と思い、取り組んでいます。
Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。
法律の論文は専門用語が多くてとっつきにくいので、市民の方にもというのは言いにくいのですが、企業法学科の学生には、是非とも読んでもらいたいと思います。この論文は私が院生の頃に書いた論文なので卒論のお手本になればいいですね。それから、企業法学科の先生方の論文は『商学討究』に掲載されることが多いのですが、『商学討究』という名前の紀要に法律の論文が載っているとはなかなか思わないので、他大学の法学部にはほとんど所蔵されていないのではないでしょうか。私の母校もそうで、『商学討究』の論文を読むのに別の学部の資料室まで行かなくてはいけませんでした。そこで、Barrelに収録された『商学討究』の法律学の論文を多くの人に読んでもらって、『商学討究』が有名になるといいなと思います。
Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。
Barrelに載せることで、自分の周りの同業者ばかりでなく、多くの人に読んでもらえる機会が増え、嬉しく思います。すぐに論文全文が入手できるのも嬉しいですね。
興味を持った方へ!...一原先生からのオススメ入門書
青字は本学図書館で所蔵しています。リンクをクリックしてご確認ください。※この推薦本は、2009年9月4日に追記しました。
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一原先生,お忙しい中,貴重なお話をありがとうございました!
「負担の分配」という視点はドイツ刑法を参考に一原先生が導入された斬新な観点です。一原先生の論文について「法律時報 78巻6号 pp102-104」で川口浩一氏が論文についての紹介と評価をされていますので、参考にご覧になることをお勧めします。
先生方のご協力のおかげで正式公開から1ヶ月経たずに200件に達しました。ありがとうございました。200編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。