Barrelの収録文献が平成20年12月3日に1200件を超えました!
1200件目の文献は,社会情報学科の小笠原春彦先生による,
小笠原,春彦(2000) On the standard errors of rotated factor loadings with weights for observed variables. Behaviormetrika, 27(1): p.1-14でした。
小笠原先生にお話を伺いました。
Q:登録1200件目の論文「On the standard errors of rotated factor loadings with weights for observed variables.」は、どのような内容ですか?
統計科学の一領域に多変量解析という分野がありますが、多変量解析とは多くの変数について相互の関係を計量的に記述したり将来を予測したりする分析手法の総称です。多変量解析の分野の一つに因子分析があります。因子分析は、約100年前から使われているもので、当初は教育心理学の分野で開発されたのですが、今では心理学のみならず、医学、教育学、言語学、工学、経営学など使われない分野はないのではないかというくらい浸透している方法のひとつです。
統計学の他の分野でも同様ですが、因子分析では完全な情報を持ったデータではなく個体数が限られたデータを使うのが普通です。そうすると完全なものではないために、誤差が出てしまいます。誤差があるのに結論を出してしまうことになりますので、誤差の大きさを評価しながらそれを合わせて報告することが現在の論文スタイルの標準になっています。この論文では実際の応用場面での因子分析結果の誤差について統計的指標である標準誤差に関して発表させていただきました。
Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?
1996年に、因子分析で用いられている代表的な直交回転後の標準誤差について、1999年には同じく斜交回転後の標準誤差について日本の学会誌に発表したのですが、日本語で発表すると読んでもらう人が限られてしまうということで、新しい研究内容を加えて二つをまとめて2000年に改めて発表したという次第です。
偶然にも、この論文がBarrelの1200件目ということになってとても嬉しかったです。というのは、自分の中でも比較的気に入っていた論文だったということもありますが、1200件目のご連絡を頂く少し前の先月、これからの研究の方向付けを考えるにあたって、この周辺の研究を発展させていきたいと考えていたところだったので、この論文を改めて読み返してみて、こんなことも書いていたのかなというようにこれまでの研究を見直す機会にもなっていたからです。
Q:現在の研究について教えてください。
現在は、漸近展開という分野を中心に研究しています。通常の場合は、観測個体数が限られるので統計解析の結果に誤差がでます。これらの誤差の確率的な大きさを数学的に正確に評価できる場合もありますが、多くの場合はなかなかそれを得ることが難しいので、どうするかというとある場合は数値実験を行います。一方、漸近展開を使うと観測個体数が大のときに多くの場合、展開の結果が真のものに近づくことが知られていますので、その結果を有限な観測個体数の場合に近似的に用いることを行います。現在は因子分析に限らず、いろいろな手法の統計的な振る舞いや誤差について漸近展開を用いて評価することを研究しています。
Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。
この論文は、日本行動計量学会が1970年代に創ったBehaviormetrikaという行動科学を中心とする学際的な雑誌に掲載されたのですが、行動科学に限らず広い意味で統計の分野に興味を持っていただける方に読んでいただきたいです。
Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。
1200件目に当選する前にも、以前書いた論文をBarrelに登録してもらっていましたが、私自身気づかなかった点を改めて感じました。例えば、JST(科学技術振興機構)のJ-stageで公開している論文をBarrelにも登録していることに関してですが、最初はファイルを図書館として独自に持つことに消極的な考えでした。しかし、ファイルを一箇所のサイトに置いておく場合、メンテナンス時間等利用できない時間帯があるかもしれないし、管理組織が変わったり、システム障害などで突然閲覧できなくなることもないともいえませんので、ファイルを重複してもつことの意味があるのではないかと考えるようになりました。最近では、著者に冊子体の抜刷の代わりに電子抜刷を渡す学会等もあります。そういった媒体をBarrelにどこまで登録できるのかというと、著作権的なことをクリアしなくてはならないのでしょうね。
また、個人が電子的に多くの論文の現物を即時に取得できるようになったのは数年前からと思いますが、自分自身、読みたい論文をインターネットで検索していて発見できダウンロードできた喜びは大きかったものです。そういった意味でもBarrelのようなサイトは有意義であると考えますので、今後も発展していっていただきたいです。
Barrelは著作権の関係で全文を掲載できない論文があったりして、長所がわかりにくい点もあると思います。著者の原稿であれば掲載できるという出版社もあるようですが、頁付が大幅に変わったり、編集者によって雑誌に掲載される際に修正されたりいうこともあります。このように著者版と実際に雑誌に掲載されたものでは相違点がありますので、著者版をBarrelに掲載するのにためらいもあります。しかし、多くの場合は読者にもこれらの点は容易に理解できるので著者版が提供可能であることはよいことだと思います。
興味を持った方へ!...小笠原先生からのオススメ入門書
青字は本学図書館で所蔵しています。リンクをクリックしてご確認ください。※この推薦本は、2009年9月3日に追記しました。
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小笠原先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。
先生方のご協力のおかげで正式公開から約9ヶ月で登録論文数も1200編を越えました。ありがとうございました。1200編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。