2008年12月11日にダウンロード件数が10万件を突破しました!
10万件目の文献は,商学科の渡辺和夫先生による,
渡辺, 和夫 (2005) 会計基準の変遷(3) -個別会計基準の拡大-. 商学討究, 55(4): 67-83
でした。
渡辺先生にお話を伺いました。
Q:ダウンロード件数10万件目の論文「会計基準の変遷(3) -個別会計基準の拡大-」は,どのような内容ですか?
この論文のタイトルは「会計基準の変遷(3)」となっていますが、当然(1)と(2)があり、シリーズものの論文となっています。タイトルが「会計基準の変遷」となっていますが、別の言い方をすると会計基準の歴史ということになります。これを3つの論文で分けて取り上げているということになります。
まずは会計基準とはどういうことかということです。企業がいろいろな会計処理をする、帳簿に色々な取引を記録するときにどういう記録をするのか、あるいは決算のときにどういう決算をしたらいいのか、ということは会計基準で決められています。ですから会計基準に基づかないで、いろいろな会計処理をすることは現在では適正ではないということになります。
企業がどういう会計処理をしたらよいのかという会計基準を文書化したものが長い歴史の中で作られてきていますが、どういう内容の会計基準がこれまで作られてきたのかというのを3回にわたってまとめたのがこれらの論文です。
(1)の論文では、明治時代から第二次大戦前の内容を取り上げました。(2)の論文では、第二次大戦後に飛躍的に発展した会計基準について取り上げました。その発展の原動力になったものとして昭和24年に作られた企業会計原則があります。主にその企業会計原則が、どのように発展していったのかについて述べています。(3)の論文では、企業会計原則の後の話ということになりますが、企業会計原則というのは昭和57年に最終的に修正されて以来修正されていません。ですから(3)の論文では昭和57年以降の内容について主に取り上げています。
昭和57年以降企業会計原則が修正されなくなって、どういうかたちで会計基準が作られたのかということですが、企業会計原則とは別に、会計処理の個別の内容毎に会計基準が設定されていきました。本来ならば企業会計原則を修正して、企業会計原則をみれば会計原則を知ることができるというのが望ましいのですが、そういうやり方が行き詰まってしまって、個別の会計問題毎に個別の会計基準がどんどん設定されたのですが、個別の会計基準と企業会計原則の内容をトータルでみないと現在の会計基準がどうなっているのか分からないという時代に変わってきているということです。そういった個別の会計基準について、どういうものが公開されたのかということを取り上げたのが(3)の論文です。昭和57年は企業会計原則が最後に修正された年で、それまで個別会計基準がないわけではありませんが、それ以降に作られたものが圧倒的に多いので、全部ではないのですが、ひとつひとつを年代毎に取り上げて解説しました。
会計基準は、毎年のように頻繁に修正されたりしているので、2、3年経つと現状と違う内容になってしまいます。教えるほうの立場でいうと絶えず新しいことを吸収していかないと間違えたことを教えてしまうということでやりにくい面もあります。
この論文は2005年のものですが、それ以降も会計基準は修正されていっているし、新しい基準が設定されています。また、この論文の中で、概念フレームワークという言葉がありますが、これは会計基準の基礎となるものにはどういうものがあるのかを文書化したもので、会計基準と密接な関係を持つものです。
2007年に出版した『財務会計変遷論』の第2章に今回の一連の論文を掲載していますが、財務会計のこれまでの歴史をみていただけると思います。本にすることで今までの研究の成果をある程度まとめられたのでよかったと思います。
Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?
なぜ会計の歴史に関心をもったかというと、大学院に入ってすぐの頃からですが、リトルトンの学説研究を始めて、修士論文、博士論文についてもリトルトンについて取り上げたことがきっかけです。博士論文をまとめた著書が『リトルトン会計思想の歴史的展開』です。会計の歴史に造詣が深いリトルトンの影響を受けて、日本の会計の歴史を勉強しようと思いました。会計の歴史といってもアメリカの会計の歴史や、会計の基礎となっている複式簿記の歴史をたどるといった研究など様々な分野がありますが、日本の会計の研究者は、外国の会計の歴史を研究している人が多く、肝心の日本の会計の歴史について研究している人は、最近は少し増えてきていますが、当時は少なかったことも日本の財務会計の歴史の研究を始めるきっかけのひとつとなりました。
Q:現在の研究について教えてください。
現在も会計の歴史について関心をもっています。今何を研究しているかということですが、会計の歴史にとって重要な年である明治6年の会計について調べているところです。
明治6年は、外国から会計の基礎となっている複式簿記が翻訳された年でもありますし、日本で最初に株式会社が決算書を作った年でもあります。近代的な会計制度の出発点が明治6年といえるのではないかと思います。また、単に会計の面だけではなく、当時の社会状況や、会計と社会の関わりについても調べたいと思っています。
具体的には、福沢諭吉と複式簿記の翻訳は密接なつながりがあります。福沢諭吉には『學問のす丶め 』という本がありますが、ほぼ同じ時期に書かれた『帳合之法』という本の中で、福沢諭吉が簿記や会計についてどのように考えていたのかについて書かれています。これが今まさに関心を持っている内容です。
著書『財務会計変遷論』でもこの内容についてふれていますが、明治6年のいろいろな状況についてさらに掘り下げてみたいと思っています。さしあたって福沢諭吉から入っていこうということで、『帳合之法』が中心となっていますが、それ以外にも『學問のす丶め 』や福沢諭吉の自伝などを少しずつ読んでいるところです。
Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。
会計の歴史を扱ったものが最近書いた論文では多いので、多くの人に日本の会計の歴史に関心を持っていただきたいと思っています。会計について言うと、現在と将来のことについては注目する人は多いですが、これまでの過去の会計の歴史に少しでも関心を持ってくれる人が増えてくれたらと思います。
私の論文では若干会計の専門的な知識がないと理解できないところもあるかもしれませんが、それほど専門的な知識はいらないと思うので、基本的には出来るだけ多くの人に関心を持って頂けるとありがたいなと思います。そういった意味でBarrelを通じて広く関心を持たれる機会が得られると思います。また、ダウンロード数を見ると予想以上に読んでいただいていると思います。
「商学討究」に載せたままだと、それを調べて読んでくれる人は一部の専門家しかいないような感じがしますが、Barrelに載せることによって裾野が広がるのではないかと思っています。
Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。

つくるというか準備をしていただく人が大変なのではないかとすごく感じます。
Barrelに実際に論文を組み込む作業というのは大変だと思いますが、Barrelに掲載されたお陰で多くの人に目を通してもらうきっかけとなるので、ありがたいことだと思います。
Barrelが出来た当初はどういうふうになるのか見当もつかなかったのですが、実際に多くの人にアクセスしてもらえるということが分かり、Barrelにまとめたことが意味があったのではないかと実感します。
雑誌に載った論文を出版社としてBarrelに掲載を許していないものがありますので、書いた論文全てをBarrelに掲載するのは難しいですが、できる範囲で、できるだけ多くの人に公開していくというのはとてもよいことだと思います。今は、雑誌とか本が売れなくなってきているところがありますし、出版社との協力関係が求められているのではないでしょうか。
興味を持った方へ!...渡辺先生からのオススメ入門書
青字は本学図書館で所蔵しています。リンクをクリックしてご確認ください。※この推薦本は、2009年9月9日に追記しました。
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渡辺先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。
「会計基準の変遷(3) -個別会計基準の拡大- 」の先行論文をBarrelに掲載していますので、併せてご覧ください。
「会計基準の変遷(2) -「企業会計原則」の展開-」商学討究, 55(2/3): 59-72 (2004)
「会計基準の変遷(1) : 戦前の会計基準」商学討究, 55(1): 31-42 (2004)
これからも附属図書館では、先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも、ご著作をより多くの人々へ届けるため、論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。