Barrelの収録文献が平成21年1月7日に1400件を超えました!
1400件目の文献は,社会情報学科の佐山公一先生による,
佐山, 公一 (2008) 「原語から直訳された新奇な隠喩文の即時的な理解」. 商学討究. 59(2/3), 1-30でした。
佐山先生にお話を伺いました。
Q:登録1400件目の論文「原語から直訳された新奇な隠喩文の即時的な理解」はどのような内容ですか?
レトリック(修辞)技法の一つである比喩表現の中で、比喩であることが明示されない隠喩法があります。外国語では一般的であるが、母語では一般的でない隠喩文を外国語から直訳した隠喩文がどのように理解されるか、その時間経過を探る研究です。
分かりやすく説明しましょう。日本語の文章を英語に訳そうとする場面を想像してください。日本語の文章の中に、『男は狼である』という隠喩文が出てきたとします。これをそのまま訳せば『A man is a wolf』となりますが、この二つの文は同じ意味になるでしょうか?答えは同じです。この場合は同じですが、必ずしも日本語の隠喩文をそのまま単語を移し変えて、文の意味がいつも同じになるとは限りません。『男は狼である』と『A man is a wolf』がなぜ同じ意味になるかというと、この隠喩かそれぞれ母語としてよく使われるからです。では、それぞれの言語でよく使われていると、なぜ互いに似た意味になるのでしょうか? よく使われることにどのような意味があるのでしょうか?
『Sam is a pig』はどういう意味だと思いますか?『~ is a pig』は英語でよく使われる言い方ですが、日本にはありません。ありませんが、英語でよく使われることには意味があります。もしこの意味が『サムはガツガツ食べて行儀が悪い』と私が説明すれば、ああそうか、確かにそういう意味になるなあと思うのではないでしょうか。こうした慣用的でない新奇な隠喩文を読んで解釈・理解に至る過程、さらに慣用的な表現と慣用的でない(新奇)な表現との理解の仕方の違い等についての実験が今回の論文の中味になっています。
今回の論文の実験では、ポーランド語と中国語でよく使われている『A is B』の文の単語をそのまま日本語に置きかえて理解してもらっています。日本語母語話者にとって見たことのない文を新奇な隠喩として理解することに相当しています。これを『A is B』のAの方は同じにして、Bを適当に選んできて理解する場合と比較します。そうすることで、ある言語でよく使われる隠喩文が良く使われている理由を知ることができます。ただし、文脈がないとなぜそういうことを言うのか分かりませんから、そういう文を言って自然になる文脈をつけます。
過去の隠喩文の理解過程の研究の流れの中で、今回の論文の研究は、新奇な隠喩文の理解過程を説明した研究と位置づけることができます。これまでの隠喩文の理解過程の研究は、一つの言語でよく使われる隠喩文を研究材料にしてきていています。初めて目にする文を隠喩としてどのように理解するかを実験で示すことは困難でした。なぜか。そういう新奇な隠喩文を作ることが難しいからです。そこに私のアイディアが生きてきます。つまり、他の言語でよく使われる隠喩文を、そのまま単語レベルで変換して日本語母語話者に見せると、日本語母語話者にとっては初めて見る隠喩文になります。初めて見る文なのですが、Bを適当に選んできた文より理解するのがおそらく簡単になるだろうと予測できます。それと同時に、よく使われる隠喩文の理解過程と比較もしていますので、新奇な隠喩文の理解が、慣用的な隠喩文のそれと同じか違うか知ることもできるのです。 本研究の結果があれば、これまでよく分かっていなかった新奇な隠喩文の理解過程が分かるようになるので、隠喩文の理解過程の説明が十全になる、というわけです。
Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?
大学院生時代からレトリック(修辞)の理解過程について研究してきました。大学院生のころ、広告コピー文に興味をもっていました。西武百貨店の『おいしい生活』というコピーに衝撃を受けました。本来こういう言葉の使い方はしません。初めて見る使い方でした。でも意味は通じる。その理由が知りたかったのです。現在のようなWeb社会でも、こういった言語使用の重要性はなくなっていません。むしろ高まっていると思っています。
Q:現在の研究について教えてください。
二つのパターンがあります。一つは大学院生時代から続けている研究、レトリックの理解過程の研究です。このテーマで研究している研究者は世界中にいて、80年代のから続く研究の流れがあります。
もう一つは、ゼミの学生と一緒に考えたテーマに関する研究です。ゼミの学生が面白いと思ってやった研究は、素朴な思いつきから始めた研究が多いです。
以前、商学討究に出させていただいた研究の中に、『相手の顔から年齢を推定する研究』というのがありました。保育園と老人介護施設に行き、そこの職員に乳幼児・学生・高齢者の写真を見せて年齢を当ててもらう実験です。保育士は普段から乳幼児に接しているし、高齢者介護施設の職員は高齢者に接しているので年齢を当てやすいのではという仮説を確かめるために始めた実験です。仮説とおり経験の効果はあり、保育士は乳幼児の年齢を、介護施設の職員は高齢者の年齢を他者より高い精度で当てました。学生に対する年齢については双方が同じような結果となりました。
Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。
学生はもちろんのこと、同じテーマを研究している研究者にも読んでもらいたいです。研究はどれも苦労して行っていますから、より多くの人に成果を知ってもらえたらと思っています。
Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。
ダウンロード数の多さに驚いています。ダウンロード数の詳細通知を見ると、同分野の研究者の所属する大学からダウンロードされていることがしばしばあります。同じ研究をしている研究者に論文を読んでもらえるのは嬉しいことです。かつては、同じ研究をしている人の論文を読むために有料のデータベースを検索していたのですが、今は無料のGoogle Scholarを検索するだけでBarrelのようなリポジトリで公開されている論文を読むことができるようになって便利になりました。
興味を持った方へ!...佐山先生からのオススメ入門書
青字は本学図書館で所蔵しています。リンクをクリックしてご確認ください。※この推薦本は、2009年9月30日に追記しました。
---
佐山先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。
先生方のご協力のおかげで正式公開から10ヶ月で登録論文数も1400編を越えました。ありがとうございました。1400編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。