ダウンロード件数20万件目記念インタビュー

2009年6月3日にダウンロード件数が20万件を突破しました!

20万件目の文献は,言語センターの鈴木将史先生による,
Suzuki, Masafumi (1988) Zusammenbruch der Ehre -Über den Ehrenkonflikt in "Die Ehre" und "Heimat" von Hermann Sudermann im Vergleich mit den Ehrentragödien "Agnes Bernauer", "Emilia Galotti" und "Kabale und Liebe"-. 独語独文学科研究年報, 14: 39-59でした。

鈴木先生にお話を伺いました。

MrSUZUKIQ:先生の書かれたご論文" Zusammenbruch der Ehre -Über den Ehrenkonflikt in "Die Ehre" und "Heimat" von Hermann Sudermann im Vergleich mit den Ehrentragödien "Agnes Bernauer", "Emilia Galotti" und "Kabale und Liebe"-がダウンロード20万件目でした。

 20万件目のダウンロードとのことですが、不可解なんですよね。どうして22年前に書いたドイツ語の論文が20万件目なのか。毎月の統計でも、この論文はけっこうダウンロードが多いんですよね。どういう理由でダウンロードされるのか不思議に思います。ドイツ本国からのアクセスなのでしょうか。


Q:この論文は,どのような内容ですか?

 22年前に書いた論文なので、自分の記憶でも定かではないというところがありますが名誉の崩壊というテーマの論文です。19世紀転換期に書かれたヘルマン・ズーダーマンの"Die Ehre"(名誉)と"Heimat"(故郷)という作品、それより前の時代に書かれたドイツの戯曲で、いずれも名誉を重要なテーマとした、ヘッべルが書いた"Agnes Bernauer"(アグネス・ベルナウアー)、レッシングの" Emilia Galotti"(エミーリア・ガロッティ)そして最後にシラーの" Kabale und Liebe"(たくらみと恋)の5つの作品を取り上げ、名誉というテーマの取り扱いの違いについて論じた論文です。
 古今文学に扱われるテーマ、文学を動かす原動力には愛、美徳、嫉妬、恨み、怒りといった人間感情があると考えられますが、中世以降の作品では、そういう原動力のファクターとして「名誉」が重要となってきます。
 名誉というものは、ショーペンハウエルが分類していますが、大きく分けて4つの名誉があるといわれています。第1の名誉は「市民的名誉」です。一般の人が生まれつき持っている人権といってもよい名誉で、現在でも受け継がれているものです。第2の名誉は「職務的名誉」です。ある団体に所属すると発生する名誉です。他の集団では通用しないその職務のみで通用するといった名誉です。第3の名誉は「性の名誉」です。「性の名誉」の場合、男性がもっている名誉、女性がもっている名誉は違います。女性が生まれつきもっている名誉は貞節性、処女性というもので、現代ではやや薄れつつありますが、中世では絶対的な名誉でした。男性の性の名誉は自分が庇護する女性の性の名誉を守るというところにあります。第4の名誉は「地位の名誉」です。これは男性特有のそれも特定の階層のみが持ちうる名誉で、例えば貴族あるいは高位の軍人が持って生まれた名誉です。
 特に性の名誉、地位の名誉は組織化されており、その名誉には中心があって性の名誉の中心は聖母マリアです。地位の名誉の純粋に中心にあるのもキリストですが、実際の地位の名誉の中心として中世に君臨したのは国王ということになり最高の名誉を持っていることになります。
 これが名誉体系ということになりますが、この論文では5つの作品の中での名誉の取り扱いについて論じています。1700年代の中頃までは名誉、特に性の名誉と地位の名誉は作品の原動力であり、"Agnes Bernauer"と" Emilia Galotti"にその特徴がみられますが、" Kabale und Liebe"を経て1800年代の後半に入り自然主義が始まると、"Die Ehre"や"Heimat"にみられるように、作品そして人間社会を動かすのは名誉ではなく人間の欲望、感情が重要なファクターになり、名誉がまったく効力を失ってしまうというのがこの論文で論じたことです。


Q:この論文を書きはじめられたきっかけは何ですか?

 北大の大学院生だった頃、ドイツに留学したのですが、ミュンヘン大学で名誉を扱った講義があり、それが非常に興味深いものでしたので日本に帰ってからも研究を続けました。 実家のある旭川で、タイプライターを借りて執筆した思い出があります。


Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。

 現在2500件以上の論文が登録されているとのことですが、これからもどんどん増えていくんでしょうね。CiNiiでは医学系論文はけっこうヒットしますが、人文系はあまりヒットしないように思いますが、その中でも商大のリポジトリはかなりヒット率が高いので、Barrelは入力が進んでいる方ではないかと思います。
この20万件目の論文は北大のHUSCAPにも登録されていますが、最初からBarrelを訪れて論文を探す人にとっては、Barrelに登録されていないと探せないわけですから、複数のサイトに論文を置く意義はあると思います。Barrelには研究者ページがありますが、入り方がよくわからないので、一覧になっているとよいと思います。
あとは、絶版になった本などがBarrelで見られるとたいへん便利だと思います。高商時代の先生が書かれた本の電子化などはどうでしょうか。


recom. books  興味を持った方へ!...鈴木先生からのオススメ入門書

山田勝 『決闘の社会文化史-ヨーロッパ貴族とノブレス・オブリジェ-』北星堂書店, 1992

アレヴィン/ゼルツレ 『大世界劇場 宮廷祝宴の時代』法政大学出版局, 1985


青字は本学図書館で所蔵しています。リンクをクリックしてご確認ください。※この推薦本は、2009年9月4日に追記しました。

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鈴木先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。


これからも附属図書館では、先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも、ご著作をより多くの人々へ届けるため、論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。