Barrelの収録文献が平成21年9月15日に2800件を超えました!
2800件目の文献は,企業法学科の河森計二先生による,
河森, 計二(2006) 生命保険金請求権の特別受益性. 生命保険経営, 74(2): 103-127でした。
河森先生にお話を伺いました。
Q:登録2800件目の論文「生命保険金請求権の特別受益性」は、どのような内容ですか?
簡単にいうと、最高裁判所が、被相続人が残した生命保険金(財産)の取り扱いについて、民法の相続(財産分与)の規律とは原則別個のものと判断したことに対して、生命保険金は原則相続法の規律に服すべきであると論じたものです。たとえば、兄弟が数人いたとしましょう。借金などの債務を負っていた者が死亡して相続が開始したとします。債務の引当となる相続財産がなく、生命保険金だけが唯一の財産であった場合、生命保険金を相続法の規律と原則別個のものと扱うことになると、生活に困窮する相続人の救済をはかれない結果となります。この点、遺族の生活保障という機能を持つ生命保険においては、原則として民法の相続法の規律によらなければ問題があるということを説明したかったということです。
相続時、被相続人へ特段に寄与した相続人に対してより多くの遺産配分を求めるケースが多く、生命保険も特に寄与した者が受取人に指定される傾向にあります。相続財産と生命保険金が最初から別個のものというスタンスに立つと、保険金受取人が相続財産における寄与分の二重取りという極めて不公平な事態を生む可能性が残ることが問題の一つとしてあります。
Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?
保険学セミナーという研究会が、ほぼ毎月東京で行われているのですが、そこでこの生命保険金と相続との取り扱いに対する最高裁判所の平成16年決定について報告することになったということにあります。生命保険契約法と民法の相続編の交錯について最高裁の立場ではそれぞれ別個に理解していくという立場にあります。しかし、そもそも生命保険金は遺族の生活保障という機能を持ち合わせていますし、なぜ保険金だけが相続法の規律から離れて理解されなければならないのか明らかな説明がなされていないことに疑問をもち、この研究を始めました。
Q:現在の研究について教えてください。
大学院生のときから続けて研究しているのですが、生命保険契約における「告知義務」について研究しています。保険に入るときに、皆さんも経験されたことがあると思いますが、「あなたはここ5年以内に入院・通院されたことはありますか?」などと質問されたことと思います。ここで、もし、病気で入院したことがあるのに、「いいえ」と答えると、あとで保険金が支払われなくなることがあるわけです。しかし、その「いいえ」という回答が生命保険会社の誰かからの指示があった等の場合(告知妨害や不告知教唆といいます)、法律上はどのように解決するのかが問題になるわけです。この研究の一部は、Barrelにもお載せいただきました。その後、日本では、商法のひとつの章であった保険に関する部分が「保険法」という単行法として編成され、来年(平成22年)施行されます。私が研究している「告知妨害」について「保険法」に明文化されたのですが、まだまだ実際の事例を通して研究しなければなりません。類型化してこの問題に取り組んでいる方は他にいないと思いますので、強い使命感(!?)を胸に、引き続き、この点を問題として事例の積み重ねのあるドイツとアメリカの判例法理を参考にしながら解決の糸口を見つけ出していきたいと思っています。一つひとつ判例を読み込んでいく気の遠くなる作業です(苦笑)。
Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。
今回掲載いただいた論文は、もともと実務家を読み手として書かせていただいたものなので、対象が狭くなりがちですが、保険は身近な存在ですから、大学生や大学院生の皆さんにも読んでいただきたいです。第一に、図書館の情報は大学生の「財産」ですからね。誰でも生命保険に加入すると思うので、希望としては、専門家だけではなく、保険に加入するとき、さて、誰に保険金を受け取らせるかとお考えの方に読んでいただきたいですね。そうすれば様々な問題があることに気がつくことでしょう。
ただ、法律用語のほか、保険については特有の専門用語が多いので、取り付きにくい部分があると思います。元々は専門家を対象として書いており、素人向けに平易な言葉に直すと意味が曖昧になる恐れがあります。一方、あまり専門用語を用い過ぎると一般の方たちが読めなくなってしまうというジレンマを抱えて・・・そこは難しいですね(笑顔)。
商法の中で論じられていた専門家の学説や最高裁の判断等が今後どのように動いていくのか非常に注目されているところであり、消費者保護に関連して保険でも契約者保護に関する条文が数多く付加されましたので、一般の方向けに平易な解説書も書くつもりです。
Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。
いわばネット上で小樽商科大学の図書館が24時間情報を提供しているということは、非常によいことだと思います。大学生や大学院生であれば昼間に図書館に立ち寄って調べものをすることができますが、実務家等、会社勤めされている方は特に仕事が終わる時間には図書館でじっくりと調べものをすることができないのではないかと思います。そんな時、小樽商大図書館の「Barrel」にアクセスすると論文等を読めるということは、特に、時間的に制約されたなかで研究される方々にとっては有難いことだと思います。論文などを著作権処理しながら一つひとつ掲載する作業は、大変なご苦労があろうかと思います。本学のような少ない研究者の中で2800件もですからね。一歩一歩の積み重ねが、これだけ大きな効果に結びついている
。 研究上、他の法律に関する論文はもとより、他学科の研究分野とも関連して調査しなければならない必要もあるのですが、Barrelでは他の先生の論文を学科単位や個人別に検索できるところが大変有り難く便利であると感じます。他機関の研究者に自分の論文を紹介、検索させることもアドレス等のメモ無しでできますから。
私も、皆さんのご努力に報えるよう頑張って学生のためにもよいモノを書いていきたいと思います。
興味を持った方へ!...河森先生からのオススメ入門書
青字は本学図書館で所蔵しています。リンクをクリックしてご確認ください。※この推薦本は、2009年9月25日に追記しました。
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河森先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。
先生方のご協力のおかげで正式公開から約1年半余りで登録論文数も2800編を越えました。ありがとうございました。2800編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。