3000件目記念インタビュー

平成21年10月21日登録件数が3000件を突破しました。!

3000件目の文献は,アントレの中村秀雄先生による,
中村, 秀雄(2008) 国際取引契約書:修正のキーポイント(9). 国際商事法務, 36(6): 808-818
でした。

これを記念して平成21年11月5日(木)に附属図書館館長室にて中村秀雄先生と和田健夫館長に対談していただきました。中村ゼミの二人の学生さんも同席してくださいました。

3000thinterview1【館長】:3000件目の論文「国際取引契約書:修正のキーポイント(9)」は、どのような内容ですか?

【中村先生】:「国際取引契約書:修正のキーポイント」は、この(9)を含む12の項目をシリーズとして連載し、完結後に加筆・修正を加えて1冊の本として刊行しております。
  国際取引で英文契約書を取り交わす際、最初から全て自前で作成していくのは大変です。また作ったとしても、受け入れてもらえないこともあるでしょう。といって相手の作成した契約書をそのまま利用するのでは自分に不利になりかねません。過去の定型的な雛型が用いられる場合も多いのですが、これもそのままでよいという訳には行きません。といって、相手のドラフトを使いながら、相手に有利な事項を全て否定しては交渉が成り立ちません。そのようなときに相手方から提示される契約書に対し、ほんの少し修正を加えることで自分に有利な条件にする方法、つまりパワーバランスを自分のほうに上手に引き寄せるためのテクニックを紹介しています。
  また、正しい契約書を書くための手法についても論じています。契約書というのは法律のようなものですから、責任が曖昧になるような、どうとでも取れる表現はよくありません。「これであって、これでしかない」という文章が良いのです。実際の英文契約書には「これである」けれども、「これでしかない」という風には読めないものが少なくないので、この点についてのアドバイスを盛り込んであります。
  さらに作成された契約書を、いかに効率的にチェックできるかの勘どころ、ノウハウも述べています。
  そもそも何故この論文を書いたかというと、日本企業の方々の英文での契約交渉力を鍛えるためなのです。日本の実務家の英文交渉力はまだまだ十分とはいえません。そうした状況の中で、いかに最大限の力を発揮して国際トレードパートナーと対等にやり合っていくか、そのための技術を開示することがこのシリーズを書いた目的です。

【館長】:英文契約は、英米法を基に作られていますね?

【中村先生】:実際の国際契約では英米法以外の準拠法が適用されることもあります。しかし契約書で英語の表現を使うのであれば、まずそれがそもそも英米法ではどのような意味を持っているかを、正しく理解しておかなくてはなりません。例えば「オレンジ」の訳語は「みかん」だとしても、オレンジの意味範囲と、みかんの意味範囲は異なります。そこではオレンジとは何かが問題になるのです。契約書の意味を探るときに、日本語訳だけを見ていたのでは誤解します。
  国際取引契約書作成では語学の壁をクリアし、さらに言葉の英米法における意味・内容を正しく理解すること、この二つのハードルを越える必要があります。英米法での意味が出発点で、契約上の意味が到達点として、そこにどうやって到達するか、ということです。

3000thinterview1【館長】:この研究を始められたきっかけは何ですか? やはり実務家としての経験も長かったからでしょうか?

【中村先生】:会社に勤めてから2年して、2年半ほど米国ロースクールや弁護士事務所でアメリカ法の理論と実務を勉強しました。ところが日本に帰ってみると、現場での契約実務はカット&ペーストというか、自分で作らず先例継続・流用事例が多いのです。これを見て、自社に有利な契約を自分で作成できないかと考えたことが始まりです。30歳の頃、実戦部隊の人たちが苦労せずに契約書が作成できるよう、書き方のノウハウ・ツールとしての便利帳を書くことにしました。その原稿がかなりの量になり、まず1冊目の本『英文契約書作成のキーポイント』が出来ました。僭越ですけど(笑)、元々教えるのが好きだったのかもしれません。契約書の書き方を考えているうちに、理論をもう少し学びたいと思い、1990年から6年間のロンドン駐在時代には英国契約法を研究しました。それで契約書の言葉の英米法上の意味もよりよく理解できるようになりましたので、今回の連載に至ったわけです。

【館長】:契約法についてかなり勉強なさったのですね。しかし、英文契約書の作成は、ある程度型も決まっているでしょうし、機械的に作っている面が多いのでしょうね。

3000thinterview1【中村先生】:実際には先例やマニュアルに倣い、名前や商品名を書き入れるだけといったことが多いです。それはそれでよいのですが、大事なことはそのサンプルがどちらの立場で書かれているかを理解して使うということです。なるべく自社に有利なように、権利を大きく、義務を小さくするよう書かなくては(笑)。出版されている契約書用例集をみると、売り手または買い手のどちらかの立場ではなく、中立で書かれているものが少なくありません。法律も債権者・債務者という表現で、中立の立場で作られています。しかし契約書というものは自分に有利な方向で作成するものです。
  また大きなプラント輸出契約などでは、先例を使うわけには行かず、様々な範囲の権利・契約の確認が必要で、自分で作成することが求められます。

【館長】:現在の研究について教えてください。

【中村先生】:契約関係では準拠法について研究しています。多くの国の法律で、ある契約について二つの準拠法を指定したり、それを途中で変えることができます。私は余り賛成していませんので、そのことを突き詰めて考えてみたいと思っています。
  また、不可抗力にも興味があります。日本では過失責任主義の下で不可抗力による債務不履行の場合には責任を負いません。ところが英米法は無過失責任主義であり、一般的には不可抗力による免責が認められません(特に英国)。今年の8月に日本が加入した「ウィーン売買条約」(正式には「国際物品売買契約に関する国際連合条約」)も無過失責任主義です。そのような法制度の下で、不可抗力によって契約が履行できないときに、どう免責を勝ち取るか、あるいは逆の立場でいえば、どのように是が非でも相手に義務を履行させるかは、契約書の内容をどのように書くかによります。ちなみに日本の民法も近く無過失責任主義に変るといわれています。契約書の中で不可抗力条項をどう書くのが良いのかも研究題目の一つです。
 その他に北海道で国際取引をしようとする人たちを支援する目的で、道の委嘱でジェトロで無料の貿易、国際取引相談を行っています。多いときは月に数件の相談が寄せられます。また、ビジネス創造センターの登録研究会として国際取引契約研究会を作って、国際取引に関する啓蒙・啓発運動をしたり、道内銀行の顧問としてお客さんの相談のバックアップに応じたりもしています。いま全学で取り組んでいる「地域研究」にも加わっています。このようなことを通じて、北海道における国際取引のインフラを少しでも良くすることに力を尽くすのが、大袈裟に言えば私の使命だと思っています。

3000thinterview1【館長】:相談されている国際取引関係は殆ど英語ですか?

【中村先生】:日中間では日本語・中国語が多いです。そのほかに道内企業はロシア、香港、シンガポール、台湾などと取引をしていますが、使用言語は英語が多いようです。 全世界的に言えば、英語が7~8割、次いで使われるのがスペイン語(中南米)、中国語、ロシア語、フランス語(旧仏領アフリカ)、といったところでしょうか。
 地元で貿易相談を受けていてバリアであると感じるのは、英語、語学です。次に英文契約書の壁が高いですね。北海道では弁護士さんでも、渉外弁護士の看板を掲げているところは無いようです。

【館長】学生さんたちも、折角来ていただいたのだから・・・ゼミではどんなことをしているのですか?

【鈴木さん(中村ゼミ)】英語の契約書をみんなで読んだり、そして4年生では実際に国際取引をするのです。(ボールペンを取り出す)今年は、台湾の企業と協力し、この革巻きボールペンを作りました。小樽市の総合博物館や朝里クラッセホテルにも置いてもらうことになっています。小売価格は1000円くらいです。(安い!と一同驚く)

3000thinterview1【中村先生】ゼミでは毎年、違う企業と国際取引をやります。これまでも、ブックバンド、就活手帳、名刺入れ、小銭入れなどを作りました。図書館でも革の栞など作ってみたらどうですか?

【鈴木さん(中村ゼミ)】4年生では、契約書の書き直しをしたり、英語で契約書を作成したりもします。品物が実際に形になって出来てくるので、大変やりがいがあって楽しいです。

【大田代理】利益はあるんですか?

【中村先生】そうですね、あることもあります。利益が出ると卒業旅行の費用として役立てています。名刺入れを作ったときは、皆で香港の契約の相手の会社を訪問しました。実際に工場を見学し、品物の製造過程を知ることができました。キー・ケースを作った一昨年は青島の会社へ行きましたね。

【館長】契約どおり履行されないこともありますか?

【鈴木さん(中村ゼミ)】それは余り無いようですが、契約では代金を、契約時に30%払い、発送3日前に40%、そして納品して検品したのち(3日後)に残りの30%を払うようにしています。

【中村先生】そうすると企業としては、利益を上げたければ、きちんと契約を履行しなければということ、つまり間接的な抑えになるわけです。なお、取引するのは毎年違う会社です。そうでないと、学生は契約書を毎年上書きするだけになってしまいますからね(笑)。

【館長】Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。

【中村先生】やはり実務家の方々に読んで欲しいです。実際に結構ダウンロードされているようで、喜んでいます。私自身も国際取引の資料をインターネットで探すことがよくありますが、公開されているものでも、良いものは大抵有料です。Barrelのように無料公開してくれるのは大変良いことだと思います。まあ、個人としては、本が売れなくなるというデメリットもありますけれどね(笑)。

【図書館スタッフ】図書館で、先生の論文を読んで本を買ってみようと思った、という人もいます。Barrelの論文を少し読むことで興味を引かれ、本の購入に繋がることも多いのでは・・。

【中村先生】そうですね(笑)。私もちょっと気になって、連載が加筆・修正の上で1冊にまとまっていることをBarrelに注記していただきました。

3000thinterview1【館長】それでは最後に、 Barrelについてご意見,感想をお願いします。

【中村先生】Barrelを検索する際に、やり方によってはヒットしにくいことがありますね。検索方法を改善してゆけば、さらに使い勝手が良くなるでしょう。
  また、トップ頁で、今月のダウンロード数ベスト10などを表示して、パッと目を引く宣伝をすれば、アクセスするお客さんの心を掴むことが出来るのではないかと思いますよ。 

【館長】長時間にわたり、有難うございました。有意義なお話を聞くことができ、深く感謝申し上げます。