900件目記念インタビュー

Barrelの収録文献が平成20年9月5日に900件を超えました!

900件目の文献は,教育開発センターの辻義人先生による,
辻,義人(2007)コンピュータ操作技能の向上を促す説明活動のあり方 : 説明者による「問いかけ」の効果の検討. 日本教育心理学会第49回総会 (文教大学越谷キャンパス, 2007年9月15日(土)~17日(月・祝))
でした。

辻先生にお話を伺いました。

Mr.TsujiQ:登録900件目の論文「「コンピュータ操作技能の向上を促す説明活動のあり方 : 説明者による「問いかけ」の効果の検討」は、どのような内容ですか?

この研究は、博士論文の最終章から抜粋したもので、速報的なものといえます。タイトルには「コンピュータ」とありますが、実質は教授学習研究、つまり、上手な教え方を扱ったものです。コンピュータをテーマとした理由は、社会的なニーズの高まりのためです。学生や社会人はもちろん、中高年の方々にも役立つ研究をしたくて、効果的なコンピュータの教え方を研究しました。
今回は、主に2つの結果を報告しています。第一に、説明場面での話し手と聞き手の対話内容です。これまでの研究では「説明者が主導権を握り、学習者は受動的である」と指摘されてきました。実際、何かを説明させる実験を行うと、ほとんど指摘通りの結果になっています。しかし、少数のペアでは、話し手が聞き手に説明を求めたり、わからない部分を報告させたりといった、これまでの指摘と異なる現象も見られることがわかりました。これはどのような意図で、どのような効果があるのかを検討する必要があると思いました。そこで、第二に、聞き手に説明させた際の効果を報告しました。実は、私たちが日常的に会話を行っている際には、かなり頻繁に「誤解」が生じています。ほとんどの場合、何度か対話を繰り返すことで「何かおかしい」と気づき、誤解の修正が行われています。しかし、たまにですが、なかなか気づきにくい誤解も生じます。このようなとき、話し手が聞き手に説明させることで、簡単に誤解を発見し修正できるようになります。また、聞き手の学習に対する積極性を向上させる意味でも、話し手と聞き手との対話、特に問いかけは重要であることがわかりました。



Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?

私は、もともとコンピュータ(特にエクセル)が大の苦手でした。ヘルプ画面を見たり、マニュアルを読んでも、ますます混乱するばかりで…(笑)。それでも、コンピュータに詳しい友人に説明してもらうと、すぐに理解することができるのです。人間の説明の方が、ずっと要領を得ていて、しかも早い。「人間はすごい!」とつくづく感心しました。
そこで、人間の何が、どんな風にすごいのか、に興味を持ってはじめたのがこの研究です。最初はマニュアル研究からはじまったのですが、研究を進めるにつれて、どんどん「人間のすごさ」に興味が引きつけられていきました。


Q:現在の研究について教えてください。

もっとも興味があるのは、「わかりやすい説明のあり方」の研究です。これまで、主に説明の最中のやり取りに注目してきましたが、もしかしたら、事前の説明プランもわかりやすさに大きく影響しているかもしれません。現在考えているのは、「説明のわかりやすさ=事前のプラン能力×対話中の調整能力」の検討です。特に、事前のプラン能力は、文章作成力やプレゼン能力など、他のいろいろな要因にも関係している可能性があります。
もう一つは、教育開発センターでのテーマである「大学の教育活動のあり方」の研究です。教育心理学の知見を生かして、実験や調査に基づいた教授法の提案をしたいと思います。しかし、研究を抜きにしても、基礎ゼミなどで学生と議論している時が一番楽しく、私自身の勉強にもなりますね。今後も学生とのふれあいを通して、「おもしろい授業とはなにか」を考えていきたいと思っています。


Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。

社会貢献が研究者の役割と考えているので、対象を問わずできるだけ多くの人に読んでもらいたいです。強いて挙げれば、サイエンスカフェなどで研究者が積極的に一般市民と関わる機会が増加しています。なので、例えば、医師、弁護士、研究者などの方々に、難しい内容をわかりやすく伝えるテクニックの重要性を伝えられたら、と願っています。


Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。

Mr.Tsuji
先日、学外の某センターから連絡がありました。Barrelに登録された私の論文に興味があるので、ぜひセンターに寄贈して欲しいとの依頼でした。このように、必要な文献や資料を、誰にでも提供できる形で公開するBarrelは非常に便利ですね。まったく予想外の出来事でしたが、社会貢献できて嬉しく思いました。
Barrelはいろいろなところを繋ぐリンクの役割を果たしていると思います。まずは研究者同士を繋ぐリンクです。私の場合、多くの先生方の研究分野は知っていても、その内容までは知りませんでした。この点、多くの先生方の本当の興味を知ることができるのはとても貴重なことです。将来的に、Barrelによって研究者同士の情報共有が進み、学際的な研究が促進されることになるのではないでしょうか。また、教員と学生とを繋ぐリンクとしての役割も挙げられます。恐らく、学生の立場では、ゼミの指導教員以外の先生の専門分野を知ることは難しいでしょう。その点、Barrelでは、それぞれの先生の興味が完全に反映されます。専門用語が多くて難しいかもしれませんが、気になる先生の論文を読んでみるのもいい勉強になると思います。Barrelによって、先生と学生の距離がぐっと近くなりますし、私としても、学生が読んでくれると思うと研究へのモチベーションが上がります。今後も、ますますの充実を期待しております!


recom. books  興味を持った方へ!...辻先生からのオススメ入門書

(1)比留間太白, 山本博樹編 「説明の心理学 : 説明社会への理論・実践的アプローチ」ナカニシヤ出版, 2007

(2)岸学編著「文書表現技術ガイドブック」共立出版, 2008 

(3)藤沢晃治著 「「分かりやすい教え方」の技術 : 「教え上手」になるための13のポイント(ブルーバック B-1623)」講談社, 2008 

辻先生から:
これまで「説明活動」は、あまりにも自明であったため、研究対象として注目されることは、ほとんどありませんでした。しかし、近年になって「わかりやすい説明」への注目が高まり、少しずつですが、専門書や入門書が増えてきています。
私も、説明研究に携わっている研究者の一人として、上記(1)と(2)に、それぞれ1章を寄稿しています。
「なぜ自分の説明が相手に伝わらないのか」、また、逆に「なぜ相手の説明がわからないのか」といった、日常的な疑問に対して、考えるきっかけになるものと思います。

青字は本学図書館で所蔵しています。リンクをクリックしてご確認ください。※この推薦本は、2009年9月8日に追記しました。
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辻先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。



先生方のご協力のおかげで正式公開から半年あまりで登録論文数も900編を越えました。ありがとうございました。900編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。