Barrelの収録文献が平成21年2月3日に1600件を超えました!
1600件目の文献は,言語センターの嘉瀬達男先生による,
嘉瀬,達男(2008) 「楊雄『元后誄』の背景と文體」 學林, 46-47: p.119-137でした。
嘉瀬先生にお話を伺いました。
Q:登録1600件目の論文「楊雄『元后誄』の背景と文體」は、どのような内容ですか?
楊雄(ヨウユウ)という人物が皇后(元后)の死に際して書いた追悼文(誄・ルイ)について、文学的、歴史的な意義を論じたものです。
今から約2000年前のことですが、この作品が作られた後、多くの作家によって盛んに追悼文が作られるようになったほど、影響力の大きかった作品です。楊雄のものは700字ほどの短いもので、元后の功績をたたえ、その死を追悼しています。4字句ばかりを重ね、韻を踏んだ、詩に近い文体です。このように修辞的な追悼文を読み解きつつ、作者と、元后をとりまく政治的な背景から作品の制作理由を探りました。
Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?
この論文を書いたきっかけは二つあります。まず、従来進めていた楊雄研究の一環として、楊雄の文体論を探るため。もう一つはこの論文を掲載した雑誌『学林』が、私の先生の先生である白川静先生を追悼する特集号でしたので、追悼文をえらびました。
もともと、中国文学に興味を持ち始めたのは高校卒業のあたりからです。初めは諸子百家や詩が好きでしたが、最近は小説のほか『史記』『漢書』のような歴史書も面白いですね。中国文学の広大さ、奥深さに実に興味を惹かれます。
Q:現在の研究について教えてください。
楊雄は文学者であるとともに思想家であり、また方言辞書を編纂し、天文学の造詣も深かった人です。このように多才な人物のもつ意義や影響力を当時の社会の中で明らかにしたいと取り組んでいます。
前漢から後漢にうつる時代は、文化的に停滞していたと言う人もいますが、変化がとらえにくい中で内面的な深化が進んでいたと思います。その中で楊雄は、多くの分野で前代の成果を消化して次の時代を導いており、転換点となるはたらきをした人物と考えています。ですから中国古代研究の中でも重要で、避けては通れない人物なのですが、活躍が多岐に及ぶためなかなか全体像がとらえにくいところがあります。
今のところ西暦紀元前後の文学史、思想史、学術史など横の広がりを意識して研究していますが、今後は時代を広げたいと思っています。また、言語センター所属ですから、中国語学にも力を入れたいですね。映画や歌も用いてわかりやすく語学を教えられたら、と思っています。
Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。
国内外の専門家はもちろん、専門家以外の方にも読んでもらえるとうれしいです。
中国でも学術論文のweb公開は大変進んでおり、大量の論文を読みこなす必要が高まっています。情報収集は容易になっていますから、拾い読みでもしていただき、どこか関心をもってもらえる部分があればよいと思っています。
Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。
中国では論文のweb公開がかなり進んでいます。しかし、テキスト化されていない画像のみのデータも多く、また大抵はダウンロードに料金がかかります。
日本のweb公開は日進月歩していますが、中でもBarrelチームは少人数で頑張っていて素晴らしいですね(笑)。漢字ばかりで面倒な論文を迅速にデータ化してもらえて大変感謝しています。書き手としても心強い支援者を得て、大変励みになります。
Barrelは論文を発表する新たな場所として、紙媒体にまさる点も多く画期的な存在です。今後とも情報を蓄積し、安定した維持、運営がなされるよう、がんばってもらいたいです。
興味を持った方へ!...嘉瀬先生からのオススメ入門書
青字は本学図書館で所蔵しています。リンクをクリックしてご確認ください。※この推薦本は、2009年10月16日に追記しました。
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嘉瀬先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。
先生方のご協力のおかげで正式公開から11ヶ月で登録論文数も1600編を越えました。ありがとうございました。1600編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。