1700件目記念インタビュー

Barrelの収録文献が平成21年2月12日に1700件を超えました!

1700件目の文献は,言語センターのダニエラ・カルヤヌ先生による,
Sasaki, Kan, Caluianu, Daniela (2000) An optimality theoretic account for the distribution of pronominal clitics in Romanian, 一般言語学論叢, 3: 57-68でした。

カルヤヌ先生にお話を伺いました。

MsCaluianuQ:登録1700件目の論文「An optimality theoretic account for the distribution of pronominal clitics in Romanian」は、どのような内容ですか?

この論文で扱っているテーマは一般にはあまり馴染みのないものです。ルーマニア語には代名詞接語というものがあります。その配列のあり方を説明するために、最適性理論(1993年にAlan PrinceとPaul Smolenskyによって提唱された言語学理論)という新たな手順を使って分析を試みました。
 この最適性理論は、言語学ではなく理科系から出てきた言語学へのアプローチです。一般的には、言語はシステムであると考えられていますし、言語ごとに決まった規則があるという見方がされています。これに対して、最適性理論はそういう言語ごとに規則があるという見方を否定します。そして、言語の文法の違いを普遍的な制約とその言語ごとのランキングの違いで説明することを目指しています。この理論では過去の言語理論と異なり、制約は絶対的なものではなく違反が可能で優先順位があり、制約のランキングを基準に評価して最適なものが実際の語形や用例となると考えられています。
 ルーマニア語の接語代名詞の配列を説明するには、統語論の情報だけでなく音韻論の情報も必要です。伝統的な文法理論では、このような複数の部門にまたがる情報を扱うのは困難でしたが、最適性理論は複数の部門の情報の相互作用を扱うことができます。 そこで、この現象の説明について最適性理論を使ってやってみようと考えたわけです。


Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?

新しい最適性理論に興味をもったことです。筑波大学大学院での研究で、私は母語のルーマニア語を使って、新しい理論を試してみようと思いました。


Q:現在の研究について教えてください。

最近は、各国の「正しくない言語」に興味を持つようになりました。 例えば、若者言葉は年配者にとっては「正しくない言葉」ですし、地方の方言も標準語から見ると「正しくない言葉」になります。また、外国語学習者の言葉は母語話者から見ると、やはり「正しくない言葉」です。しかし、これらの言葉は全て一つシステム、一つの言語です。
 「正しくない言葉」がどのように発生するのか興味があります。現在の若者言葉が「正しくはない」と見なされたとしても次の時代にはそれが日常的な言葉に変化します。どういう言葉が次世代の言語として残るのか、「正しくない言語」がどのように正しい言語へと変化していくのかいう点に関心があります。


Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。

一般の方々や学生には専門的すぎると思いますが、参考文献で引用している方々に読んでもらいたいです。それから最適性理論や接続代名詞等、そしてルーマニア語に興味をもっている方々にも読んでもらえたらと思います。


Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。

 この論文に関しては、既に筑波大学の同種コレクションに掲載され、検索・閲覧ができるようになっています。今回Barrelでも掲載され、学内から見やすくなりました。毎月のダウンロード回数を知らせてもらえるのはいいですね。
 古い文献やマイナーな文献がオンライン化されることは、とても意義があります。


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カルヤヌ先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。



先生方のご協力のおかげで正式公開から11ヶ月で登録論文数も1700編を越えました。ありがとうございました。1700編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。