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小樽商科大学研究者総覧
2000件目記念インタビュー
Barrelの収録文献が平成21年4月10日に2000件を超えました!
2000件目の文献は,商学科の金 鎔基先生による,
金, 鎔基(2009)米国自動車産業における職長制度の変遷と生産性管理. 商学討究, 59(4): 13-39
でした。
これを記念して、4月30日、附属図書館館長室にて、金鎔基先生と和田健夫館長に対談していただきました!金先生のゼミの皆さんも同席してくださいました。
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館長:金先生が執筆された「米国自動車産業における職長制度の変遷と生産性管理」がBarrelの記念すべき登録2000件目の論文となりました。まずはどのような内容か教えてください。
金先生:自動車産業に限りませんが、米国の色々な製造業の現場で働く労働者のすぐ上の現場監督者を「Supervisor」、日本では伝統的に「職長」と呼ばれています。この論文では、その職長制度の米国自動車産業における変遷及び生産管理の状況について調べたものです。
トヨタなどの日本の職場では、大卒ではない社員が長年(約20年)現場で叩き上げられ、技術と現場及び従業員を知り尽くした経験者が内部昇進で職長となり、生産現場をまとめてきました。ところが、米国も昔はそうだったのですが、1960年代からは現場経験のない大卒を職長に採用する傾向が広がりました。1980年代に日本式経営を取り入れるブームが起こっても、その傾向はむしろ強まるばかりで、現在、GM(ゼネラル・モーターズ社)など大企業のほとんどの職長は大卒です。現場叩き上げの職員もネット通信教育で学士号を取得する必要に迫られています。
館長:GM(ゼネラル・モーターズ社)でも、自前の大学がありますね。
金先生:はい。そういったところも日米で違います。その違いは何なのか?
現場管理のあり方は根本的な問題だと考えました。「職長制度」という言葉は同じでも、経験豊富な職長と若年大卒職長とでは、現場をまとめる能力、知識、経験に大きな差があります。この違いについて、米国内の認識はやや甘いような気がします。もちろん問題が有ることは認識されているのですが。
企業にとって重要な生産性・品質管理等も、トヨタでは職長クラスの役割がきわめて大きい。そこも米国とは違います。
もう一つ注目の違いは、民主主義の強い米国では、職長による上からの管理を弱め、平等主義や自治を重んじるチーム制度を導入している点です。こういった傾向から、職長の役割が減り、職長がいらなくなるのではないかという見方もできます。
しかし別の視点からすれば、GMのように労使の境界線が明確な職場の問題もあります。経営側にいる職長が労働側にいる部下労働者を管理するのが難しいから、ああいうふうになってしまうとも考えられます。
韓国も私の知る限り、発想的には米国に近いものがあります。職長になるには、トヨタが20年の経験がいるといっているのに、韓国の現代自動車では約5年とかいってましたから。でも、職長が内部昇進であることは日本と同じです。米・韓と日本を比較できれば、面白い論点が出てくるのではないかと思っています。
館長:金先生が、更に研究を進めていこうと思われている点はどういうところですか?
金先生:ここに書いてあるのは、主に1960-70年代あたりの出来事が中心です。今のようなシステム=何故大卒の職長を採用したか?その背景や、米国内の事情などを論じています。
面白いのは、日本的経営に学ぶと叫ばれていた80年代から更にこの傾向が強まったことです。この80年代以降の変化が何故起こったかをもう少し詰めなければなりません。
館長:大卒の職長は製造業全般に広がっているのですか?
金先生:大企業ではほとんどが大卒で、中小企業ではまだ叩き上げが主です。人事管理、生産・経営システムが体系化されている企業、つまり一流企業ほど、大卒を取り入れます。
館長:日本のように理工系・文系別採用区分はありますか?
金先生:製造業では理工系が多いです。以前から産業と大学が連携しており、工学系では実務と理論を兼ね備えた職長を養成するためのプログラムもあり、何度かインターンシップも行われています。
館長:日本の場合は、そういうものは現場で叩き上げて習得という考え方ですね。
金先生:日本と違い、職長は最初から入口が違うのです。もちろん現場社員のモチベーションは問題でしょう。
また現場経験を積み上げて得られる知識より、外部教育などを評価するスタンスです。
館長:日本の職長と職務や権限の違いはありますか?
金先生:多少の違いは有りますが、アウトプットは同じなので基本的なものは変わりません。
館長:大卒とはいえ現場経験の浅い大卒の管理によって生産性を問題視する声はないのですか?
金先生:私が訪ねた企業でそういう声はあまり有りませんでした。資格のある方・クオリティの高い人が管理・監督者になることは良いことという意識があるのです。ある意味、そのような制度が当たり前になって染みついているようです。ただ、実際にそれで問題は無いかと尋ねると、現場に近い人からはやはり有るという応えが返ってきますから、管理能力に問題がないわけではないと思います。
極端な話ですが、近年は職長のなり手が無く臨時職長代行を外部から募集しているほどですから。そうした職長の質が高いはずがありません。
職長のなり手が少なくなった原因は様々です。度重なるリストラーでそこの雇用が不安定になったことも一因です。しかし下から昇任する伝統を潰してきたことが決定的要因だと思います。
館長:職長が敬遠される要因について、幾つかお願いします。
金先生:一つは労使関係でGMあたりは特にそうです。労使は信頼の上に成り立ちます。日本も労働組合の強弱、経営側と近すぎるといった問題はありますが、米国の経営者は叩き上げの労働者に対して、経営革新的な能力を発揮することを期待・信頼していないという面があります。また、内部昇進が少なければ職長と労働者の摩擦も大きくなり、経営側と労働者の板挟みで孤立するということもあります。
昇進には中から7割、外部から3割を黄金比率とする理論もあります。しかし今回の調査を踏まえて考えると、それは絶対的理論ではなく、米国の、1960年代以降の事情を反映した経験則に過ぎないのではないでしょうか。
館長:金先生のソウル大学でのご専攻は?
金先生:元々は労働管理ではなく、国際経済でした(笑)。
館長:先生は、東大で長く研究され、米国デトロイトにも滞在して多様な研究をなされていますが、日本に来て労務管理の研究をしようと思われたきっかけは何ですか?
金先生:私は韓国の政府系シンクタンクで産業リサーチの仕事をしていたのですが、韓国の民主化で労使関係がガラッと変わりました。日本の戦後変革のようなものが韓国にも起きまして、「労使関係」「労務管理」というのが花形になり、私の世代では多くの研究者がいます。今はそれほど人気はないようですけど。
そこで、当時は日本を見れば韓国の未来が解るのでは?という認識があり、日本で調べてみようと思ったのがきっかけです。
館長:米国での研究についてはどうですか?
金先生:ミシガン州も北海道と似たところがあり、製造業が衰退すると地域自治体もいろいろと対策が必要になり、政府系プロジェクト研究でミシガンの研究関係者から私にも声が掛かり、当地での研究や日本の経営について説明する機会を得ました。
そこで米国が日本式経営に倣おうとしているとしているのは見えるのですが、どうも日本のそれとは何かが違うと感じました。そこで調べてみると、人の動きが違うと分かりました。大卒でない現場労働者は、昇進の機会が限られ、必要以上に働くことは考えていない。家族サービスも日本の比ではない。特にアメリカは家が大きいので、家周りの芝刈り等など住宅環境整備も地域社会上の義務のようになっています。早く帰宅しやることが一杯ある。そうした慣習上の違いも大きいと感じました。
館長:同じ仕組み・システムを使っていても、その動かし方が違ってくるのですね。
金先生:各自何を考え、どこに情熱をささげるのか、人によって異なり、その方向性によっては全然違うものになります。米国ではノンエリートは仕事に対してはそこまで情熱を注がないからです。ただし、これが米国の国民性かというと違う。ウォルマート(ディスカウントのスーパーマーケットチェーン)などは、パートタイマーの低賃金、ノーユニオンが批判されてはいますが、店員はとても親切で、システムがとてもよくできています。日本企業以上に家族主義的な管理のやり方をしています。日米の国民性等だけで企業経営の動向を測ることはできず、管理システムの違いにより、善し悪しも変わってくるものと思います。
館長:大変興味深く、面白いお話を頂きました。
金先生:最後に、もうひとつ、Barrelについてです。
今、日本で遅れていると思うことは、学術論文がインターネットで入手できるものが非常に少ないということです。英文系ですと、大方の論文は本学でもエブスコ等ですぐ検索できます。韓国の方もWEBで検索できるようになりましたが、肝心の日本の論文が、日本に居ても図書館を通して1週間待たなければ入手できないケースが多いです。
著作権とか、いろいろな問題が有るとは思いますけど、有名雑誌に載る前の編集・カットされていない手原稿、これが実は研究者にとって大事であり、そういったものがBarrelに沢山載っていると助かります。公共財産ですから、その辺はどんどん頑張っていただきたいと思います。
館長:応援していただいて、担当者もますますやる気が湧くと思います。先生のこの論文はBarrelに掲載しているわけですが、どのような人に読んでもらいたいでしょうか?
金先生:執筆時は研究者のことを意識して書きますから対象は研究者ですが、書き方自体は、できるだけ難しい表現を避けて易しく、内容も単純な話で分かりやすくしてありますから、是非多くの方に広く読んでもらえればと願っています。Barrelの今後の益々の発展を祈念しています。
館長:本日は長時間にわたり誠に有難うございました。今後のご活躍を期待しています。
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先生方のご協力のおかげで正式公開から約1年で登録論文数も2000編を越えました。ありがとうございました。2000編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。
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