ダウンロード件数50万件目記念インタビュー

2010年2月15日にダウンロード件数が50万件を突破しました!

50万件目の文献は,商学科の坂柳明先生による,
坂柳, 明 (2007) 未確定事項に直面した監査人の対応 : 文献・制度の評価(6), 商学討究 58(1): 91-141でした。

坂柳先生にお話を伺いました。

Q:ダウンロード件数50万件目の論文「未確定事項に直面した監査人の対応 : 文献・制度の評価(6)」は,どのような内容ですか?

 正確な内容については、近々刊行予定の拙著、『未確定事項の監査論』をご覧頂きたいのですが、ごく簡単にまとめますと、これまで監査論上で議論されてきた「未確定事項」という概念について、伝統的に知られてきたタイプAの未確定事項に加えて、新しくタイプBの未確定事項を提唱し、この論文では、そのようなタイプAとBの未確定事項の区別が、これまでの先行研究でなされていたかどうかを検証しました。ここでの「未確定事項」とは、「将来に起こる事象の結果が監査人に判断できない項目(状況)」という意味で、先行研究は「未確定事項」を2つのタイプに識別しておらず、その意味では先行研究の議論は不十分なものであった、というのがこの論文の結論です。
 また、この論文では、先行研究として、よく知られている「コーエン委員会報告書」とその背景論文(Carmichael(1976))を分析対象にしているのですが、これらの文献を評価する際に、将来に発生する事象に関する「予測(prediction)」と「評価(evaluation)」という2つの概念を区別し、導入しました。その上で、将来事象が当期の財務諸表に与える影響を監査する場合に、監査人が関わることになる役割を指摘しました。
 未確定事項のうち、「タイプBの未確定事項」は、「経営者の行う会計上の見積もりの合理性を監査人が判断できない状況」を表しますが、会計上の見積もり項目が多くなってきている現在、日本でも今後タイプBの未確定事項に監査人(公認会計士や監査法人)が直面することが十分想定されるところです。1960年代の日本や、1970年代そして2000年代の米国でも、このタイプBの未確定事項を示す監査報告書の事例が見られます。



Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?

 大学院生時代に監査論の教科書を読んでいて、「未確定事項」の概念や、未確定事項がある場合の監査人の役割(対応)がはっきりしないと感じたことがきっかけです。また、未確定事項をタイプAとBに分けるというアイデアは、小樽商大に赴任後、米国の監査報告書の事例を大量に見ていて、「おや?」と思ったことから生まれました。


Q:現在の研究について教えてください。

 「財務諸表作成時点までに確定している取引が財務諸表に与える影響の監査(例えば、売上数値や発生した損失の監査)」と対比される形の、「将来に発生する事象についての経営者の評価(主張)の妥当性なり合理性の監査」に監査人が従事する場合に、財務諸表利用者に公表される監査報告書の形態(監査人の対応)は、論理的に変化するのか、という研究に取り組んでいます。上記の未確定事項問題も、この研究に含まれます。こうした問題は、「監査」といっても、経営者の事実認識(状況認識)の妥当性を監査人が確かめるという点が関わってくるので、監査人に十分な経験がない場合には、その対応の決定が非常に難しくなります。
 これまでの監査論や監査制度では、財務諸表の数値が正しいかどうかを監査人が判断できない状況は、必要な監査手続を監査人が実施できない場合によってのみ生じる、とされてきました。このような考えが、上記の「将来に発生する事象についての経営者の評価(主張)の妥当性なり合理性の監査」を考える場合に崩れるのかどうかという点が、この研究のポイントです。もし崩れるとしたら、監査人に新しい監査報告の選択肢が与えられることになります。
米国の監査報告書の事例を大量に見ていて、「おや?」と思ったことから生まれました。


Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか?

 これから研究者を目指す大学院生はもちろん、自分の頭で考え、自分の言葉で議論し、自己主張できるようになるために、学部生の皆さんにも読んでもらいたいです。そして、他人との競争を回避して小さく生きるのではなく、既存の教科書的知識を抜本的に見直すような大きなことにチャレンジし、大きな成果を挙げてもらいたいと思います。


Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。

 読者として、内容まで読めるのはとても便利です。学生がどれくらい使っているか分かりませんが、もっとどんどん利用するといいと思います。論文の書き手としては、Barrelから毎月メールで通知されるダウンロード統計によって、人目に触れられている実感があり、刺激になります。今後も続けていってほしいです。
 図書館の皆さんは、Barrelに掲載する文献を先生方からもっと提供してほしいと思っている、ということですが、Barrelに協力したくても出版社の意向で公開できないものもありますね。また、教員が論文を執筆し、掲載されるサイクルの中に図書館が入っていないことで、忘れがちになります。登録する研究成果を自然な流れで出しやすくするために、学内でルール化するというのも1つの方法かもしれませんね。



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坂柳先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。


これからも附属図書館では、先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも、ご著作をより多くの人々へ届けるため、論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。