Barrelの収録文献が平成20年12月9日に1300件を超えました!
1300件目の文献は,企業法学科の玉井利幸先生による,
玉井, 利幸 (2005) 会社法の自由化と事後的な制約-デラウエア会社法を中心に-(3・完). 一橋法学, 4(1): 125-188でした。
玉井先生にお話を伺いました。
Q:登録1300件目の論文「会社法の自由化と事後的な制約-デラウエア会社法を中心に-(3・完)」は、どのような内容ですか?
(この研究は3回に分けて掲載されましたが全体で1つの研究として扱います。)
この論文は、規制が緩和された会社法において裁判所の果たすべき役割について考察したものです。
事前の規制から事後の規制へ、と言われるのを耳にしたことがあるかもしれません。事前の規制が緩和されたからといって何でも許容されるというわけではなく、問題が生じていないかを事後的にチェックして、不都合があれば是正する必要があるはずです。会社法の場合もそれは同じで、会社法の規制が緩和されて会社関係者の自由が拡大すると、拡大した自由が濫用的に用いられる危険も高まるので、許容されるべきか否かを事後的に審査し、弊害を是正する必要性が高まるはずです。会社法の場合、この役割を果たすのは主に裁判所です。裁判所が積極的に介入を行えば、事後的な公正性が実現される可能性も高まり、望ましいようにも思います。しかし、裁判所の事後的な介入は当事者の予測可能性を低下させ、事前のインセンティブや効率性を損なうおそれもあります。このように、裁判所の介入は、メリットだけでなくデメリットをもたらしうると考えられるので、裁判所の事後的な介入のデメリットをできるだけ回避しつつ、そのメリットを生かすような、裁判所の介入のポリシーや監視監督のあり方を、アメリカ法を参照しながら検討しました。
Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?
大学院に進学し、博士論文のテーマとして、会社法の強行法規性・任意法規化を選んだのがきっかけです。
伝統的に、会社法の規定は、会社関係者の自由を許容する任意法規ではなく、会社関係者が守らなければならない強行法規であり、会社法のルールからの逸脱は認められないと考えられていました。しかし、1990年代に入ると、アメリカの議論の影響を受け、日本においても、会社法の強行法規性を緩和し、任意法規化を進めようとする議論がなされるようになりました。そのような議論の影響を受け、博士論文のテーマとして、会社法の強行法規性・任意法規化を選びました。
当初は、強行法規の存在を正当化する理論的な根拠はあるか、あるとすれば強行法規であるべきものはなにか、を考えていました。自由が許容されるべき領域と許容されるべきでない領域を、その根拠とともに区分けしようとしたのです。しかし、研究を進めていくと、事前の区分けの試みには限界があり、現代の会社法で重要なのは、取締役の信認義務のような事前の明確な区分けが困難な問題領域であると思うようになりました。そのような領域では、許容されるべきか否かを事後的に選別する裁判所の役割が重要であると考え、裁判所の介入のデメリットを回避しつつメリットを生かすような、裁判所の事後的な監視監督の方法や介入のポリシーの探究に取り組むようになりました。その成果は、博士論文としてまとめることができました。今回Barrelに掲載された論文は、博士論文の一部に加筆修正を加え、公表したものです。
Q:現在の研究について教えてください。
これまではアメリカ法を中心に研究を進めてきました。アメリカ法を研究して得た成果を日本法の下で具体的に応用していくことが、現在とこれからの課題です。
Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。
研究者はもちろん、学生や実務家など、関心を持った人なら誰でも、できるだけ多くの人に読んでいただければ幸いです。
Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。
インターネットで検索・ダウンロードでき、無料で本文を読めるので大変助かります。文献の登録作業は大変だと思いますが、一層充実されることを願っています。
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玉井先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。
「会社法の自由化と事後的な制約-デラウエア会社法を中心に-(3・完)」の先行論文をBarrelに掲載していますので、併せてご覧ください。
玉井, 利幸 (2004) 会社法の自由化と事後的な制約-デラウエア会社法を中心に-(2). 一橋法学, 3(3): 307-347
玉井, 利幸 (2004) 会社法の自由化と事後的な制約-デラウエア会社法を中心に-(1). 一橋法学, 3(2): 315-361
先生方のご協力のおかげで正式公開から9ヶ月あまりで登録論文数も1300編を越えました。ありがとうございました。1300編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。