2400件目記念インタビュー

Barrelの収録文献が平成21年7月8日に2400件を超えました!

2400件目の文献は,中津川雅宣さんによる修士論文,
Nakatsugawa, Masanobu (2009) "Bridging the Gap : A Communicative Grammar - Translation Approach"でした。

中津川さんにお話を伺いました。

MrNakatsugawaQ:登録2400件目の論文「Bridging the Gap : A Communicative Grammar - Translation Approach」は、どのような内容ですか?

文部科学省が提示する英語教育は、コミュニケーション能力を重視する教育を学習指導要領で示していますが、実際に教育現場を見ると入試に向けた文法訳読式英語教育が未だに優先され、その格差が非常に大きいと感じました。この溝をいかに埋めるか、どうしたら入試英語を保持しつつも学習指導要領に沿ったコミュニケーション重視の学習方法に近づけることができるかということを、ひとつの指導案を提示して述べたものです。
まず、高校の教育現場(10校)を視察し、実際に使用されている教科書と指導内容を調査紹介しました。その上で、同じ教科書を使いつつも、やり方を工夫する等して、コミュニケーション能力を高めるための学習方法を、個々の具体例を示して提案しています。


Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?

元々英語は得意ではなかったのですが、ゼミの先生の影響、通訳の仕事の経験等により、英語及びその教育方法の大切さについて興味を持つようになりました。
教育実習を経験して、実際に大学で学んでいること、指導要領と学校現場の教育方法との乖離を感じ、使える英語を学ぶことができれば生徒たちがもっと楽しく、視野も広がっていくだろうと思いました。
ちょうど論文を書きはじめたときに、2011年から行われる新学習指導要領の素案が出されたころで、入試の内容も徐々にコミュミケーション重視型に変わりつつあるという印象がありましたが、現場を見てみると、教員のコミュニケーション能力の問題もありますが、まだ多くの先生が文法訳読式で「日本語に直訳してください」といった旧来型の指導が目立ちます。それを少しでも変えていく必要があるなと感じたのがきっかけです。
第二言語習得や英語教育の分野でも80年代からコミュニケーション重視の英語教育が紹介されているにもかかわらず、入試偏重傾向もあり、教員も各自の指導スタイルを変えるのは難があるようで、韓国の英語政策等と比較しても我が国はかなり遅れをとっているなという印象でした。ようやく日本も重い腰を上げてきているなというところですね。
現在の制度では、僅かな教育実習を含めて大学を出れば即教壇に立てますが、どう英語を教えていいのか分からないということもあるでしょう。不適切な教育を受けた教員が、その経験のみで指導すると負の連鎖を生みます。米国・カナダ等では教員に限らず、免許取得後1~2年の研修等も行われています。生徒よりも先生を指導する方がより課題が大きいと思いますので、論文では我が国の問題点として、学習指導要領の目標が高すぎることや、教員の能力(トレーニング不足)等も指摘しています。
教員の能力が高くなくても僅かな工夫をすれば、コミュニケーション対応の授業はできるのに自信がないのか現場がやれないでいる、そういった場合の指針や手助けになるような具体的指導要領が必要だと思いました。


Q:現在の研究について教えてください。

現在は、日本人の先生2人で行うTeam-teachingについての論文を書いています。日本人はTA(Teaching assistant)と聞くと、ALT(Assistant language teacher = 外国人語学指導助手)を思い浮かべると思いますが、ALTをうまく使えていない先生が多いと思いますし、その数も限られているので、日本人の先生2人で行うTeam-teachingを実施し、学生たちからのアンケートに基づいて論文を書いている途中です。
また、E-learningについても、目標と達成度等、その効果について学生に別途アンケートを実施し、今後執筆する予定で構想を練っています。E-learningというのは新しい分野で、まだ研究が多くされていないので、これから調べていく必要が大いにあるように感じています。
私の専攻は、TESOL(Teaching English to speakers of other languages = 英語を母国語としない学習者への英語教育)であり、この分野は、日本ではまだまだ新しい分野なので、今後渡米して、もう少しこの分野について勉強を続ける予定でいます。日本でのTESOLを研究する環境として、本学は恵まれていると思います。
私としては、日本でのTESOLは、日本人に合った外国語教育方法、教育者への指導方法等について、異文化コミュニケーションを踏まえて追求していきたいと思っています。


Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。

稚拙な論文なのであまり目に触れてほしくないと思う一方、これを基に皆さんがこの分野の研究をして、研究が活発になったら嬉しいですね。
できれば同じ研究者だけでなく、現場の学校の先生方に読んでもらい、この中に紹介してある活動の1つでも自分なりに解釈して、参考・実践してもらえることを願っています。


Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。

論文執筆中に、この文献が読みたいな…と思いつつ、お金や手間を掛けて入手するだけの内容かどうかが分からないために断念したことが何度かありました。インターネットを利用して無料ですぐに読める、ということが何より大変便利です。学部の4年生にとっても、卒業論文執筆のための文献収集をしなければなりませんので、Barrelのようなサイトは役に立ちそうですね。
また、Barrelには学位論文はほとんど掲載されていないようですので、今後、学位論文を執筆する後輩に、ぜひ掲載するように薦めたいと思います。


recom. books  興味を持った方へ!...中津川さんからのオススメ入門書

(1)
Diane Larsen-Freeman "Techniques and Principles in Language Teaching" --2nd ed. Oxford University Press, 2000
Diane Larsen-Freeman "Techniques and Principles in Language Teaching" Oxford University Press, c1986

この本は、英語を教えるメソッドが多数書かれていますので、どのような教授法があるのか、どう実施していくかが書かれています。洋書ですが、わかりやすく書いてありますので、非常にわかりやすいと思います。

(2)白畑知彦 [ほか] 著 『英語教育用語辞典 改訂版』大修館書店, 2009
私もまだ目を通している最中ですが、用語がわかりやすく載っているので、ガイドとしてはいいと思います。

(3)本名信行著『世界の英語を歩く(集英社新書 ; 0217E)』集英社 , 2003 
日本人の英語だって英語は英語だということを定義している本です。世界でどのような英語が話されているのか、これからどのように英語を教えていかなければならないのか、考えさせられる本です。アメリカ人のように話すことだけではなくて他にどんな道があるのか、外国語として英語を勉強している日本人だからこそのアプローチがあるのではないか。など、色々と考えて読める本です。

青字は本学図書館で所蔵しています。リンクをクリックしてご確認ください。※この推薦本は、2009年9月18日に追記しました。
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中津川さん、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。


研究者のみなさまのご協力のおかげで正式公開から約1年4ヶ月で登録文献数が2,400編を越えました。ありがとうございました。2,400編は先生方のご著作のほんの一部でしかありませんので、これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも、ご著作をより多くの人々へ届けるため、論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします!


なお、中津川さんは、大学院修了後も本学言語センターで研究を続けていらっしゃいましたが、8月上旬から2年間、アメリカに留学される予定だそうです。Barrelチーム一同、ますますの健闘を祈念します!