2900件目記念インタビュー

Barrelの収録文献が平成21年10月1日に2900件を超えました!

2900件目の文献は,社会情報学科の深田秀実先生による,
深田秀実...[et al.] (2008) RFIDとGISによる道路施設管理支援システムの実証実験と評価. 情報処理学会論文誌 : 論文誌ジャーナル, 49(6): 1844-1858でした。

深田先生にお話を伺いました。

MrFukadaQ:登録2900件目の論文「RFIDとGISによる道路施設管理支援システムの実証実験と評価」は、どのような内容ですか?

 論文のタイトルどおりの内容なのですが(笑)、RFIDとGISを使って道路の街路灯やカーブミラーといった道路の施設を効率的に管理する情報システムを提案し、実際に自治体の現場で使ってみて、その有効性を評価したという内容になっています。
 RFIDとは、一般的にはICタグといわれるもので、みなさんがよくご存知のところでは、SuicaやKitacaがありますが、あれもカード型のICタグの一種です。ICチップとその周辺にアンテナがあって、それに電波をあてると電流が発生して、ICチップに記録されているデジタル情報を読み書きできるという仕組みになっています。GISというのは地理情報システム、すなわち電子地図の上に、いろいろな情報を重ね合せて表示したり、分析することができるグラフィカルなシステムです。
 この2つを使って、地方自治体を対象とした実証実験を行いましたが、いくつか課題があることがわかりまして、例えば、道路のカーブによく見られるような視線誘導標がありますが、あのように道路に多数設置されているものにRFIDをつけること自体が大変な手間になります。理想的には、道路施設が納品されるときに、ICタグが既に付いているとベストですが、現実的にそこまでいくのは、かなり先だと思いますので、そうなるまでは対象とする道路施設を限定的にしたほうが良いだろうということが分かりました。また、実際にRFIDを道路施設に付ける場合の費用試算をしているのも、この論文で特筆すべきところかなと思っています。 


Q:この研究をはじめられたきっかけは何ですか?

 私の出身大学である岩手県立大学の社会情報システム学講座というところで、地元の企業さんと岩手県庁さん、つまり産学官が協力して、岩手県が管理する道路の維持管理業務を効率的に行うことができないか、ということで情報システムを使った研究を行っていました。その研究は、道路の舗装を対象として行っており、それがそもそものきっかけです。
 この情報システムは、主に道路の舗装が対象なので、岩手県が管理している県道は県全体に渡り広いエリアなのですが、ピンポイントでその場所がわかる必要というのは、あまりなかったんですね。それで、携帯電話のGPSとGISを組み合わせて道路維持管理支援システムとして実験を行っていたのですが、対象が街路灯などの道路施設ということになると、携帯電話のGPSだと結構誤差があって、ピンポイントでその場所がわかりにくいんです。そこで、道路施設にRFIDを付与することとGISを組み合わせることによって、ピンポイントで維持管理ができるのではないかと考えました。
 この研究の中で、盛岡市を実証実験のフィールドとしているのは、道路台帳が電子化されていたということもあります。ICタグとGISと電子台帳がうまくデジタルでつながるだろうと考えたのです。現場の課題に対して、情報システムを導入することによって、その課題を解決に導くということは、情報システム学では王道とされるところですが(笑)、実際に、自治体の道路管理の現場で効果を確かめることができました。
 この論文は、情報処理学会の論文誌のユビキタスコンピューティングシステム特集号に掲載されました。RFIDは読み取る機械が別途必要で、この研究では、RFIDを読み書き出来る携帯電話の試作機を使ったのですが、ユビキタスになっていく社会を想定して情報システムを考えたという面でも評価されたのではないかと思います。ただ、情報システムの対象が道路施設ということで、すっごく地味ですけどね(笑)。でも、道路や水道のような社会インフラの維持管理は、アセットマネジメントという言葉が土木分野でも注目されているように、今後ますます重要になってくると思います。


Q:現在の研究について教えてください。

 自治体のGISを研究対象としています。それは、わたくしの前職が地方自治体の職員で、全庁のGISを担当していたことが大きく影響しています。研究テーマのひとつはGISの発展過程、もうひとつは、自治体GISに関わる職員の人材育成です。
 GISの発展過程というのは、元々、ノーランの情報システムの発展過程モデルというのがありまして、それをGISに適応できるのではないかと考えて始めた研究です。ノーランの場合は、企業の情報システムの発展段階に着目する6段階の発展モデルでしたが、それを自治体のGISでもできないかと思い、いくつかの自治体で調査しています。
 自治体GISの人材育成は、今後やりたいと思っている研究テーマです。自治体のGISをリードしてきた人たちも、そろそろ世代交代の時期になっています。次の世代がうまく育っているかというと、そうでもないというところもありますので、どのように人材育成をしていけばよいか、というところに問題意識をもっています。
 阪神淡路大震災を契機に、GISが防災の面からも役に立つと注目されてきたのですが、地方の自治体では、まだうまく展開できていないところがあります。それはGISに携わる人材の育成が十分にできていないことも、一つの要因ではないかと思います。単発的な講演会などはありますが、継続的な研修会などといった体系的な育成プログラムが少ないので、教員になった今、外部から自治体GISの支援をしたいと考えています。


Q:Barrelに掲載された文献をどのような人に読んでもらいたいですか。

 地方自治体で道路部門など社会インフラの維持管理を担当している人、応用としては公園の遊具などの点検を担当している等、広く自治体の社会インフラの維持管理を担当している人たちに、読んでもらえればと思っています。
 情報処理系の論文誌に掲載された論文は、自治体の担当者の方々の目にとまりにくいこともあると思いますので、Barrelのようにインターネットで広く公開されているシステムに掲載されることで、いろいろな人に読んでもらえるのではないかと思います。


Q:Barrelについてご意見,感想をお願いします。

 学内の先生方の論文も読んでみたいと思っていますが、社会科学系の学会ではまだインターネットで公開されている論文が少ないように感じています。そういった意味でもBarrelのように楽に検索できて、すぐ読めるというシステムはとてもよいと思いますので、ますます発展していってほしいと思っています。


recom. books  興味を持った方へ!...深田先生からのオススメ入門書


坂村健 [著] 『ユビキタス・コンピュータ革命 : 次世代社会の世界標準』角川書店, 2002

神沼靖子編著 『情報システム基礎』オーム社, 2006 

古田均 [ほか] 編著 ; 遠藤篤 [ほか] 共著 『基礎からわかるGIS』森北出版, 2005 



青字は本学図書館で所蔵しています。リンクをクリックしてご確認ください。
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深田先生、お忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。


先生方のご協力のおかげで正式公開から約1年7ヶ月足らずで登録論文数も2900編を越えました。ありがとうございました。2900編は先生方の御著作のほんの一部でしかありませんので,これからも先生方の研究成果の公開につとめていきたいと思っております。今後とも,ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等をBarrelへ寄贈いただきたくよろしくお願いいたします。